2018年5月25日金曜日

コンパスとの出会いを演出する

的当てのコートを考える円の導入について,前回お知らせしました。その翌日,次のように子どもに投げかけます。
「今日は,みんなに的当てのコートを作ってもらいます」

的から半径4㎝の位置に,友だちの目印となる丸を描きます。友だちの数を,1人,2人,3人とどんどん増やしていきます。友だちの数が増えれば増えるほど,友だちの丸の軌跡は円に近づいていきます。それと同時に,次の声も聞こえてきました。

「疲れる」
「手が痛い」
「しんどい」
「体育よりも疲れてきた」
「もう嫌になってきた」

友だちの丸を描く活動に限界を感じ始めた声です。一方,「楽しい」という声も一部の子どもからですが聞こえてきました。

「疲れた」と悲鳴をあげた多くの子どもは,写真の右のような軌跡を描きました。一方,「楽しい」と声があげた子どもは,左のような軌跡を描きました。
軌跡のできばえと,「疲れた」「楽しい」の声は関連性があるようです。

「今度は,別の半径の大きさの円を描いてみよう」
と投げかけます。ほとんどの子どもからは,「うわー」という悲鳴が聞こえてきました。もう限界ですというサインです。

この限界の声を聞いた後で,「友だちの点を何千個もあっという間に描くすごいマシンがあります」と言って,コンパスに出合わせます。
コンパスで,一瞬にしてきれいな円ができることを体験した子どもたちは,大いに感動します。

「すごーい」
「きれーい」
「感動した」

感動の声がたくさん聞こえてきました。

単純にコンパスを与えるのではなく,子どもに円の作図の苦労体験を味合わせることが大切です。このような過程を踏むと,子どもたちはコンパスを本当にすばらしいスーパーマシンだと尊敬してくれます。




2018年5月17日木曜日

的当てから円の感覚を引き出す

3年生の子どもたちに,次のように投げかけます。
「4人で的当てをします。どちらのコートでゲームをしたいですか」

多くの子どもたちは,右のコートを選択します。その理由を尋ねます。
「左のコートだと,④の人は遠くて,③の人は近い」
「左のコートでやると,もめごとが起きる」
「右のコートは,4人が同じ長さだから」
「同じ長さなら,もめごとは起きないから」
 子どもたちは,もめごとが起きない平和なコートを選びました。等距離で考えたいという根拠が,もめごとが起きないことにあったのです。子どもらしい素敵な発想です。


 正方形状に並ぶことを選んだ子どもたちに,次のように投げかけます。
「4人の友だちが,『私も入れて』と言ってやってきました。お友だちは,どこに入れてあげますか」

 子どもたちは,ジェスチャーで「あそこ」と口々に言い始めます。そこで,ノートにやってきた友だちの位置を描かせました。ほとんどの子どもたちは,右のように,正方形の頂点の間に,追加の4人を入れようと考えました。一方,ノートに追加の4人の位置を記入できずに,「あれ?」と悩んでいる子どももいました。正方形状の間に立たせることに違和感をもったのです。

 多くの子どもが考えた位置に,印を付けてみます。すると,この印を見た一部の子どもから,「なんで?」と声があがりました。この声の意味を,多くの子どもはまだ見えていません。そこで,「『なんで?』と言った人がいるけど,その気持ちは分かるかな」と尋ねます。

「青の所だと,短くなる」
「はじめの人は的まで遠くて,後から来た人は的までが近い」
「的から近くなると,もめごとが起きちゃうよ」
「後から来た人も,はじめの人も同じにならないとだめだよ」

青の位置では,的までの距離が短くなることが見えてきました。そこで,「後から来た人を,どこに立たせればもめごとは起きないのかな」と投げかけます。
子どもたちは,青の位置よりも外側に新しい位置を設定しました。

さらに,「今度は8人やってきました。どこに立たせてあげればいいですか」と尋ねます。磁石を使って,追加の位置を貼らせます。今度は,的からの距離を意識して磁石を貼っていきます。追加の8人の位置が決定すると,子どもから次の声があがります。
「花火みたいになっている」
「丸くなっている」
「円になったね」

的から等距離にある人の位置を16人作図することで,その軌跡が円に近くなることに子どもたちは気付いたのです。円の感覚を,的当てゲームを教材とすることで引き出すことができた1時間でした。

2018年5月13日日曜日

80÷4の計算方法を考える

3年生の子どもたちに,次の問題を出します。

「80個の玉子があります。4人で同じ数ずつ分けます。1人分は何個になりますか」

ここまで子どもたちは,かけ算九九で解決できるわり算の学習を終えています。従って,問題文に対する式が80÷4になることは理解できます。しかし,この式はかけ算九九の範囲を超えています。これまでのやり方では,答えを求めることはできません。そこで,子どもたちに答えの求め方を考えさせました。

まず,取り上げたのは図を描く方法です。4人の子どもの図を描き,その下に玉子を1個ずつ順に配っていく図を描きました。これなら確実です。図を見れば,1人分が20個であることがわかります。
しかし,この方法は時間がかかります。子どもたちからは,「めんどうだよ」「玉子の数がもっと増えたら大変なことになる」と声があがりました。

次に,下のような式を取り上げました。

「40÷4=10 10×2=20」

この式の意味を読解させます。最初の式のわられる数の40は,「玉子が40個なら」と考えたときの1人分を求める式です。40個の玉子なら,1人分は10個です。80個なら,10個が2つ分です。だから,1人分は20個となります。
この求め方は,80÷4の計算を知っているわり算の40÷4に変身させたのです。つまり,玉子80個を40個と40個に分けて考えたのです。

多くの子どもたちが考えていたのは,次の方法でした。

「80÷4の80の0をとる。8÷4=2になる。とった0を,2に戻した20」

納得している子どもも多くいました。しかし,「なんで0をとるの」という声もあがります。8÷4の式にしてしまうと,問題文が「8個の玉子を4人で分ける」と変わってしまいます。このことに違和感をもった子どもには,先の方法は納得できません。
「0をとって,0をもどす」
この方法は,子どもたちがよく考える方法です。しかし,これは単なる形式的な計算方法にすぎません。この方法が一度インプットされてしまうと,この方法の意味を考えようとすることが難しくなります。

そこで,次のように投げかけます。

「今までやった方法に,この方法は似ていないかな?」

これをきっかけに,子どもたちが動き始めます。
「さっきの40÷4と同じで,8÷4=2なら計算ができる」
「次も8÷4をする。次も8÷4をする・・・・・。」
「80を8と8と8と・・・8に分けて計算したんだ」

80÷4を知っているわり算に分解するアイディアは,40÷4も8÷4も同じです。既習の計算に分割する考え方は,数学的に価値あるものです。この考え方を価値づけます。
「0をとって0をつける」という意味は,1/10の大きさを求め,その後,その答えを10倍するということです。形式的に答えが求められることで満足するのではなく,その計算方法の意味をしっかりと理解させることが大切です。
40÷4の計算と関連付けることで,その意味を明らかにしていくことができました。

2018年5月8日火曜日

わり算の筆算に目的意識を持たせる

4年生のわり算の学習は,形式的な筆算練習になりがちです。単元前半は,筆算を使わずに答えを求める方法を考えさせることで,形式的な指導から脱却することはできます。しかし,後半は単なる筆算での計算練習になりがちです。そこで,こんな授業を展開してみました。

子どもたちに,次のように投げかけます。
「百の位の筆算はできるかな。531÷4に挑戦しよう」

筆算の計算の手続きは,十の位までの筆算と同じです。子どもたちは,ノートに計算を進めていきます。

531÷4=132あまり3

次に,「631÷4もできるかな」と投げかけます。前述の問題ができれば,この計算は簡単です。ここまでは,まだ子どもたちは単なる計算練習をしているに過ぎません。

631÷4=157あまり3

今度は,「731÷3はできるかな」と投げかけます。子どもたちは,ノートに計算を進めていきます。ところが,今度は計算の途中から「あれ」「同じだ」などの声が聞こえてきます。何かに気づいたのです。

731÷4=182あまり3

気づきは,子どもたちを動かします。子どもたちの気付きを発表させます。
「あまりが全部3だ」
「わられる数の十と一の位が,どれも31だ」
「わられる数の百の位は100ずつ増えている」
「答えは25ずつ増えている」
「筆算の最後の計算は,1番目の3番目の問題は11ー8になっている」
「2番目の筆算の最後は,31ー28になっている。だとしたら,4番目の計算も31−28になるよ」
「4番目の計算って,831÷4だね」

きまりを発表する中から,子どもたちが計算問題を創り出した瞬間です。子どもたちは,この他にもたくさんのきまり(共通点)を見つけました。それらのきまりは,831÷4でも当てはまるのでしょうか。子どもたちに,予想をさせます。831÷4でも当てはまると考える子どもが半分,当てはまるきまりと当てはまらないきまりがあると考える子どもが半分でした。ズレが生まれました。このズレが,子どもたちをさらに能動的にしていきます。

実際に831÷4で実験を行います。「あまりが3」「4番目の計算も,最後の筆算部分は31−28になる」などのきまりは当てはまりました。一方,最初の3問だけに当てはまったきまりもありました。計算しながら,子どもたちは「同じだ」「これは違う」などと言いながらノートに向かっていました。この声は,目的意識があったからこそ生まれたものです。

子どもたちは,「だったら931÷4もあまりは3だね」「でも,その先の千の位になったらどうかな」とさらに場面を拡張して話し合いを続けました。

計算練習場面のスタートは,教師からの問題提示が必要です。しかし,その途中で子どもがきまりに気づくような仕掛けがあれば,きまりの一般性を確かめるという目的意識をもって動き出すのです。それが,計算場面を子ども自らが拡張して考えていくことにもつながります。


2018年5月7日月曜日

わり算の意味の統合を教科書通り進める

3年生のわり算には,等分除と包含除の2つの種類があります。この2つのわり算は,かつては別の演算と捉えられていました。しかし,現在では同じわり算として統合しています。教科書でも,両方のわり算場面を学習した後に,意味の統合を行います。

この意味の統合を行う場面を,教科書の問題通りに展開してみました。問題は次の通りです。

「トマトが10個あります。10÷5になる問題を作りましょう」

子どもたちは,ノートに問題を作っていきます。「問題は2個できるよ」という声も,その活動の中から聞こえてきました。

できた問題を発表させます。
「トマトが10個あります。5人で分けると,何個もらえるでしょう」
多くの子どもたちが,この等分除型の問題を作りました。これは10÷5の問題場面です。そこで,子どもたちに答えをどうやって求めたか尋ねます。
□×5=10のを探せばいい」
が1人何個分になる」
も10も単位は個だから,□×5=10で見つける」

次に,「問題は2個できる」の声を受け,別の問題を発表させます。
「トマトが10個あります。1人5個ずつ配ると,何人に配れるでしょう」
包含除の問題です。この問題も10÷5になります。次に,答えの見つけ方を尋ねました。
「これも□×5=10のを探せばいい」
と声があがりました。ところが,「えっ?」という声も同時にあがります。
「今度は,5×□=10だよ」
 後者の式で求めることは,既に学習しています。しかし,3年生にとってその学習はすぐには定着しないものです。
「同じわける問題だから,最初の問題と同じでしょ。だから,□×5=10でもいいよ」
このような声もあがります。後者の式を主張する子どもが,過去のノートを開いて説明していきます。最終的に,子どもたちが最も納得したのが次の説明でした。
「あのね,最初の問題(等分除)はトマトを横に配っていったでしょ」
このように言いながら,図をかき始めました。図を使って2つのわり算場面の違いを説明し始めたのです。
 そこで,後者の問題(包含除)はどのような図になるのかを,子どもたち全員にノートに描かせました。この場合は,トマトは一気に縦に5個分の図を描くことになります。つまり,1人分の5個を一気に描くのです。次に,2人目の5個を縦に一気に描きます。

 2つの図を見ると,同じ配る問題でも答えに当たる部分の囲まれ方が全く異なることが見えてきます。問題場面を図に置き換えることで,2つの式の違いが明確に認識できました。

教科書では,作問の後,かけ算の式で答えの見つけ方を確認する展開です。しかし,実際の子どもは,かけ算の式の違いを簡単には理解できません。その時に有効なのが,図だったのです。教科書に問題場面の図は掲載されています。しかし,その図は子どもから引き出すというのではく,教師から提示するようなイメージがあります。図は教師から提示するのではなく,前述のように,図を使いたくなる瞬間を引き出すことで,2つのわり算場面の違いをより明確に意識できるのです。教科書の展開を少し演出することで,子どもが創り上げる授業が具現できます。








2018年5月1日火曜日

わり算なのにかけ算?

3年生で初めて出合う演算は,「わり算」です。このわり算に対する感覚は,子どもによりかなり異なります。

子どもたちに次のように投げかけます。
「12個のクッキーがあります。人で同じ数ずつ分けます。1人分は何個でしょう」

 の中がどんな数なら等分できるのかを,子どもたちに投げかけます。子どもから生まれたのは,「12人」「6人」「4人」「3人」「2人」「1人」でした。大人が考えると,どの人数でもわり算はできます。ところが,子どもたちは「1人はおかしい」と主張します。
「だって,1人では分けたことにならない」
「問題に同じ数ずつと書いてあるのに,1人では同じ数ずつにはならない」
「1人では独り占めになるから,わけてない」

子どもたちは,問題文に正しく向き合って「1人」がおかしいことを主張してきたのです。わりざんを知っている大人は,形式的にわりざんを考えてしまいがちですが,子どもはもっと素直であることを実感した瞬間です。

さて,まずは「3人」だったら1人分は何個になるのかを考えました。子どもからは,「かけ算でできるよ」という声があがってきました。この時点では図や具体物を使う考えは生まれませんでした。
そこで,子どもたちが考えた方法で問題を解かせてみることにしました。多くの子どもたちは,「3×4=12」とノートにかけ算の式を書いていました。
そこで,この式を板書します。かけ算で考えた理由を尋ねます。
「3の段のかけ算だから」
「3×4が12だから」
「12になるかけ算は3×4だから」
説明が続けば続くほど,半数近くの子どもの表情が曇ってくるのがわかりました。かけ算で考える理由が,うまく伝わっていないのです。その後も子どもたちのかけ算の説明が続きます。しかし,表情は曇ったままです。

12個のクッキーを分ける問題です。答えは,明らかに12個よりは小さくなります。それなのに答えが増加するかけ算を使うことに,違和感があるのです。この感覚は子どもらしいものです。かけ算を使う子どもは,すでにわり算の意味や答えの求め方を知っているのかもしれません。わり算の全体像が見えている子どもにとって,かけ算を使うことは自然なことかもしれません。ところが,まだわり算を知らない子どもにとってはかけ算を使うことは不自然なのです。

この授業では,「かけ算を使うことは難しいね。もっと簡単に考える方法はないかな」と方向転換することにしました。
「だったら絵を描けば簡単だよ」
「それなら,すぐにわかりそう」
子どもたちの視点が,この時点で図に転換しました。
図を描くことで,子どもたちは1人分のクッキーの数を4個と求めることができました。

授業では,絵でクッキーを描く場合のクッキーの丸をどの順で描くのかを全員で考えました。本問題は等分除です。従って,丸は1人目に1個,2人目に1個,3人目に1個と描きます。この部分をていねいに扱いました。

最後に,「図を使えば,クッキーを分ける問題は簡単に答えが見つけられるね」と投げかけます。「数が変わったらできるかな」「クッキーが100個とかだと大変そう」と声があがります。図の限界に気づいた声です。この声をもとに,次の時間はクッキーの数を変化させて授業を進めました。

分けることに対する子どもの素直な感覚が引き出された授業でした。