2017年12月17日日曜日

何の段のかけ算かわかるかな?

鎌倉の小学校2年生と,かけ算の授業を愉しみました。

かけ算九九の学習を終えた子どもたちに,次のように投げかけます。
「十の位が隠れたかけ算九九カードがあります。何の段かわかるかな?」
 子どもたちは,「そんなの簡単だよ」と声をあげます。子どもたちに目を閉じさせ,■0・■5・■0・■5・・・と書かれたカードをばらばらに黒板に貼ります。

 目を空けた子どもたちは,「わかった!5の段だ」と声をあげます。このカードは,一の位が0と5しかありません。簡単に5の段と判定できました。子どもたちに,「一の位が分かれば,何の段の九九カードか1つ決められるね」と投げかけます。

次に,2つ目のカードを貼ります。ただし,今度は「■4」「■6」の2枚だけです。残りのカードは裏返したままです。これを見た子どもたちは「2の段」「4の段」「6の段」だと声をあげます。そんな子どもたちに,「さっきは,一の位を見て1つの段しか見つからなかったに,今度はそんなにたくさんの段があるの?」と尋ねます。子どもたちは「そうだよ,たくさんあるんだよ」と声をあげます。

子どもからは,裏返したままのカードを表にすれば何の段かわかると声があがります。そこで,裏返されたカードを順次めくっていきます。そのたびに子どもからは,「やっぱり」「2の段だ」などの声があがってきます。その後,「■2」「■8」「■0」「■2」「■4」「■6」「■8」のカードが表になります。

子どもたちの多くは,2の段だと考えました。そこで,カードを並べ替えて2の段であることを確認します。

しかし,子どもたちからは「4の段」「6の段」だという声もあがります。そこで,カードを並べ替えて,4の段も6の段も作ることができることを確認します。すると,子どもから「あれ,きまりがある」「反対」という声があがります。子どもたちは,4の段と6の段の1の位の並びが反対になっていることに気づいたのです。子どもたちは,この関係を「エレベーターみたい」と表現してきました。この関係を「4の段と6の段はお友だちの関係」とまとめます。すると,5の段と2の段は一人ぼっちとなります。ところが子どもたちは,「2の段はお友だちがいる」と考えます。そこで,2の段のカードをな並び替えてみます。すると,8の段ができることがわかります。2の段と8の段も,一の位が反対の並びになっています。この2つもお友だちの関係になることが見えてきました。

この結果を見た子どもたちは,「3の段と7の段もお友だち」「1の段と9の段もお友だち」「5の段は習っていないけど10の段とお友だちじゃないかな」と考えます。しかし,ここで時間切れとなりました。この実験は,次の時間に担任の先生と愉しんでもらうことにしました。

最後に,ある女の子が「お友だちのカードの一の位をたすと10になる」という新しい発見を発表してくれました。この発見は,2の段と8の段でも,4の段と6の段にも当てはまります。それを聞いた子どもたちからは「本当だ」「すごい」と驚きの声があがりました。友だちの新しい発見を共感できる子どもたちの姿,とても素敵でした。

これまで漠然ととらえていたかけざん九九を,一の位だけに着目することで新しい見方ができることに子どもたちが気づいていった1時間でした。鎌倉の2年生の子どもたちの発想力のすばらしさにびっくりし,算数を愉しめた1時間となりました。

2017年12月16日土曜日

旗のデザインを子どもに任せる

6年生「並べ方と組み合わせ」単元では,多くの教科書や問題集に旗の塗り分け問題が登場します。この問題を,次のように子どもに投げかけてみました。
「A〜Dを赤・黄・緑の3色で塗り分けます。隣り合う部分が違う色になるように塗ると,全部で何通りの塗り分け方がありますか」
 よく見られる問題です。通常は,この後,教師から塗り分けるための旗のデザインが提示されます。今回は,この部分を次のように投げかけて,子どもに任せてみました。
「どんな旗のデザインなら簡単にできそうかな」
 子どもたちは,ジェスチャーや言葉で「しましま」模様が簡単であることを訴えてきました。子どもたちは,右のような縦縞模様の旗なら簡単だと考えました。そこで,ノートに実験を行います。
 子どもたちは,先ずはAに赤を塗った場合を考えました。この場合は,全部で6通りの塗り方があります。他にも,Aには黄と緑を塗ることができます。そこで,6×3で18通りであることがわかりました。

 次に,「もう少し,難しい旗のデザインはあるかな」と投げかけます。子どもから生まれてきたのは,中を十字架に分けるデザインでした。このデザインを見た子どもからは,「あれ,さっきと同じだよ」「そうかなあ?さっきとは違うんじゃないかな」と声があがります。さて,本当はどうなのでしょうか,子どもたちが,ノートに実験を行います。
 実験が始まってしばらくすると,「わかった6通りだ」という声と,「12通りだよ」という声があがってきました。子どもたちの考えは2つに分かれました。
 6通りと考えた子どもは,右のように考えました。AとDは隣り合うので,赤を塗ることはできません。そこで,右のように考えたのです。Aには赤,緑,黄が入ります。そこで,2×3=6通りと考えたのです。納得できる説明です。
ところがこの考え方に対して,「抜けている」と声があがります。
「赤→緑の次は赤じゃないのもあるよ。黄→緑の順もあるよ」
「赤→黄の次も,緑→黄もあるよ」
  旗の模様が変わるだけで,色の並べ方が大きく変わりました。十字架模様の場合は12通りの塗り方があることが分かりました。

 ならべ方と組み合わせの学習では,教師が問題場面を全て提示することが多いのではないでしょうか。しかし,このように子どもに問題場面の一部を任せることで,様々なバリ―ションの問題を創り出すことができるのです。

 


2017年12月5日火曜日

樹形図との出会いを演出する

正方形を提示し,子どもたちに「最短ルートは何本ありますか」と投げかけます。スタートは左下端,ゴールは右上端です。辺上のみを移動できます。この場合は,2本です。

 次に,この正方形を組み合わせて縦横の長さを2倍に伸ばします。田の字ができます。このときの最短ルートを予想させました。子どもたちの予想は4本,6本,7本,8本,10本,12本と様々でした。
「辺の長さが2倍だから,本数も2倍で4本」
「田の字の中に正方形が4つできるから,本数も4倍になって8本」
この2つの理由が,論理的に納得できる理由として支持されました。
 実際の本数を実験します。ノートに最短ルートを作図していると,「面倒」という声が聞こえてきました。この面倒さへの気付きが算数学習では大切なのです。
 実験の結果,最短ルートは6本だと分かります。この実験の過程で,子どもたちは最短ルートが線対称になっているパターンを発見します。これが分かることで,「半分調べて,あとは2倍すればいいよ」というアイディアが生まれてきます。

 さらに図形を拡大します。縦横に正方形が3個ずつ並んだら何本の道ができるでしょうか。子どもの予想は8本〜90本まで分かれました。
 実際の本数を実験します。しかし,この実験はさらに大変でした。「ごちゃごちゃする」「あれ,これはもう描いてあった」という声が次々とあがってきました。友だち同士でノートを見せないながら,だぶりや落ちがないかチェックし合う姿が見られました。
 最終的に最短ルートは20本できることが分かりました。全ての道を描き出した子どもたちは,かなりの割合でだぶりがありました。
 
 一方,図の交点に番号を付けて【S-12-9−5−2−3-G】【S-12-9−5−3−2-G】とルートを描き出す子どもたちもいました。この方法だと,数字を順に書き出していくのでだぶりはなくなります。
 さらにこの方法を簡便に樹形図化した方法も生まれてきました。同じ番号の部分を省略して書くアイディアです。
「これだと簡単」
「だぶりがない」
 樹形図の簡便さに気付く声がたくさん生まれてきました。さらに,次の声もあがります。
「最初に上に行く最短ルートを調べれば,あとはそれを2倍すればいい」
「最初に横に行くルートは線対称だからだよね」
 樹形図をさらに活用する声です。半分の最短ルートを樹形図で求めた後,残りは計算で求める考えです。


 簡便な解決方法を形式的に教えることは簡単です。しかし,それでは子どもはその方法の本当のよさを実感することはありません。苦労を体験した後でその方法に出会うからこそ,子どもたちは本当のよさを実感するのです。







重視される数学的な見方・考え方

2020年版学習指導要領算数科の目標の冒頭に,次の言葉があります。
「数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を次の通り育成することを目指す。」
 その後のページでも,繰り返し登場してくるのが「数学的な見方・考え方」です。次期学習指導要領では,数学的な見方・考え方を授業の中で働かせることが重視されているのです。

 では,数学的な見方・考え方の具体像はどのようなものでしょうか。これも学習指導要領解説書で次のように説明されています。
「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,根拠を基に筋道立てて考え,統合的・発展的に考えること」
 その後も,この言葉が繰り返し登場してきます。しかし,上記のように説明されても「うーん,よくわからない」「どういうこと」と感じる先生も多いのではないでしょうか。また,実際の授業ではどんなことに気をつければいいのでしょうか。具体的な授業を構想する段階になると困ってしまう先生も多いのではないでしょうか。

「数学的な見方・考え方」を含め,次期学習指導要領について具体的な授業とつなげた解説本を来春,明治図書から出版します。詳細は,後日お知らせします。

 また,「数学的な考え方」についての公開研修会が次の通り行われます。
2月10日(土) 筑波大学附属小学校公開研修会 算数科分科会
 この分科会で,私は学校側の立場として提案を行います。数学的な考え方を重視した授業でのポイントや現場の先生方に気をつけてもらいたい注意点などを提案します。こちらもお楽しみに!

2017年11月15日水曜日

第8回関西大学初等部研究会で算数授業を公開します

毎年恒例の関西大学初等部の研究会の案内が完成しました。ホームページに案内が掲載されています。以下のアドレスからお申し込みください。

http://www.kansai-u.ac.jp/elementary/2017/11/post-523.html

今年は,これまで4年間担任してきた6年生の子どもたちとの最後の研究会です。教科書の学習内容をほぼ終えている6年生ですので,ハードルの高い問題にチャレンジしてもらおうと考えています。

例年,多くの参加申し込みをいただいています。そのため会の運営の安全面から,申し込みを締め切ることもあります。早めのお申し込みをお勧めします。

2017年11月14日火曜日

データを批判的に見る

次期学習指導要領から,「データの活用」領域が新設されました。その中で,データを批判的に見ることが重視されています。これまでにも,6年生の「資料の整理」単元の中で同様の授業が行われてきたことがあります。ただ,それらの多くはデータを批判的に見させる授業でした。子どもがデータを批判的に見たくなる展開は多くはありませんでした。子どもが,データを批判的に見たくなる授業を考えてみました。

ブロック飛ばしゲームに取り組んだ子どもたちに,次のように投げかけました。
「ブロック飛ばし『1組は弱い』という2組の主張は正しいか」
 1組のゲーム結果は,右の柱状グラフの通りです。刺激的な問いかけに子どもたちは大興奮です。子どもたちは,「両方のクラスの平均を比べればわかる」と考えました。そこで,1組の平均値を求めます。1組の平均は53.1点でした。続いて,2組の平均を発表します。2組は44.1点です。この結果に,子どもたちは「やったー」と大喜びです。平均値では,圧倒的に1組の勝利です。ではなぜ,2組は「1組は弱い」と主張したのでしょうか。その理由を考えます。子どもからは,次の声があがってきました。
「最頻値と最大値が違うんじゃないかな」
「最頻値が高い」
 「最頻値が高い」は絶妙な言葉です。しかし,難解な言葉でもあります。この意味をじっくりと共有します。その過程で,新たな予想もあがってきます。
「最頻値が1組よりも高い95点。でも,0点台の人も多いんじゃないかな」
 さて,結果は子どもたちの予想通りでしょうか。2組のデータを1人ずつ提示していきます。95点→95点→95点→95点→…と次々と95点カードが登場します。1組の最大値は90点で1人です。「やばいほど多い」と声があがります。このままでは,2組圧倒的勝利です。しかし,子どもたちは「でも,きっと0点がたくさんいる」と先を予想します。その後もカードを貼っていきます。

 結果は,(右図の通り)2組の最頻値は95点で8人もいました。ところが,0点が6人,2点が1人と10点未満が7人もいます。10点未満は1組は3人です。データ全体を見渡すと,確かに2組は最頻値は1組よりも高く,人数も多くいます。しかし,20点台以下の人数もとても多くいます。そのため,多くの子どもたちは「やっぱり1組の方が強い」と考えました
。もちろん,90点台の人数の圧倒的な多さから,「2組が強く見える」いう意見もありました。視点を変えれば,データが異なって見えます。これこそ,データを批判的に見ることにつながります。