2017年7月8日土曜日

速さを比べるには?

速さの学習の冒頭で,次のように子どもたちに投げかけます。
「K君とチワワ,走るのが速いのはどちらでしょう」

もちろん,これだけではわかりません。そこで,両者が走る映像を提示します。ただし,K君は普通の再生速度の映像を提示します。一方,チワワはスロー再生映像を提示します。当然ですが,これでは速さの比較はできません。子どもからは,「走った距離と時間を教えてほしい」と声があがります。

そこで,この2つの情報を教えます。
K君 41mを6.4秒    チワワ 31mを5.2

走る距離も違えばタイムも違います。そこで子どもから生まれてきたのが,「基準を揃える」で考えでした。子どもたちが考えた基準は「1秒当たりに揃える」「1m当たりに揃える」「距離の最小公倍数に揃える」の3通りでした。いずれの方法でも,K君が速いことが分かりました。
 ところが,この学習を進めているときに「もっと人数が増えたら公倍数は面倒になる」「1m当たりで比べると,差があまりない」という声があがりました。
公倍数に揃えると1271mになります。これだけでも十分に大きすぎる数値です。また,1m当たりで比べると,K君は約0.2秒,チワワは約0.2秒となります。四捨五入するとどちらも0.2秒となります。これでは差がないことになります。1秒あたりで比較すると,K君は約6.4m,チワワは約5.9mです。こちらは明らかに差があります。
 K君とチワワの速さの比較では,1秒あたりに揃える比べ方がわかりやすいことが見えてきました。ところが子どもたちは,「1mあたりの比べ方もいいよ」「公倍数だっていいんじゃない」と考える子どもたちもいました。

そこで,今度は全員で走ることにしました。今度は子どもたちが自分で走る距離を決めます。走る時間も,班でお互いに測定しました。走る距離は3m,5m,7m,13m,17m,19m,23m,29m,31mとバラバラです。実際にグラウンドで測定します。

 測定を終えた班から,自分で決めた基準で計算を始め 。しばらくすると5班の子どもから「全部0.2になる」と声があがります。この声の対象となったデータは次の通りでした。


S君  29m 5.5秒
N君  19m 4.2秒
Dさん 31m 5.4秒

この声の意味を全員で共有します。
「1m当たりを基準にすると全部同じになる」
「四捨五入すると,3人とも0.2秒になるから,差がない」
「1秒当たりを基準にすると,四捨五入してもS君5.3m・N君4.5m・Dさん5.7mで差がはっきりするから,1秒を基準にするのがわかりやすい」
「最小公倍数にすると,とても大きい数になる。それに,そのあとの計算も多くなるからめんどう」

 基準を何にするかで,その結果が分かりやすい場合とそうではない場合があることが分かりました。最終的に子どもたちは,「1秒あたりで比べるのが分かりやすい」と考えました。

次の学習指導要領では統計教育が重視されています。統計の考え方を子どもたちが活用する姿を培うことが大切です。今回の学習では,子どもたちが測定した走ったデータを複数比較する中から,より速さを比べやすい方法を見つけていくことができました。統計処理を進める中から,秒速で比較するよさに気づいたともいえます。

2017年6月19日月曜日

和歌山で公開授業研究会


夏休みまでもう少しです。夏の研修の予定はお決まりですか?

7月22日(土),和歌山大学教育学部附属小学校で公開授業&講演会を行います。私と同じ研究会に所属する和歌山大学附属小学校の小谷先生が企画担当です。

地元和歌山の先生の公開授業やワークショップもあります。公開授業が土曜日に参観できる企画は,めったにありません。貴重な企画です。

夏休みのスタートを,和歌山でご一緒しませんか?

お申し込みは,以下のアドレスまでお願いします。

http://kokucheese.com/event/index/469859/

2017年6月16日金曜日

同じビルを探せ

算数の時間,子どもたちに次にように投げかけます。
「同じ形のビルはいくつあるかな?」
 この問題を聞いた子どもたちが,素敵な話し合いを自然に始めます。
「何が基準なの?」
「そうだよ。基準が分からないと・・・」
「正方形なら同じ大きさということ?」
「えっ,形だから大きさは関係ないよ」
「それってどういうこと?」
「大きい正方形も小さい正方形も同じ形ということだよ」
「もし,縦と横の辺の比が4:6の長方形なら,比が2:3の長方形も同じ形ということだよ」・・・。
 子どもたちは,「同じ形」という言葉の意味を上記の話し合いを通して吟味したのです。その結果,「辺の長さの比が同じなら同じ形」と判断できると子どもたちは考えました。
 
 上記の判断をした子どもたちに,右の図形を提示します。赤のビルを基準とした場合の同じ形を探させました。直感で,同じ形のビルの数を予想させます。「2種類」「3種類」「4種類」「5種類」と予想にズレが生まれます。

 同じ形は何種類あるのでしょうか。子どもたちは,「同じ形をほしい」と要求をしてきます。そこで,同じ図形が印刷されたプリントを配布し実験します。子どもたちは,定規を使って辺の長さを調べていきます。
 やがて,「3種類だ」と声があがります。赤いビルの底辺部は2㎝,高さ部分は5㎝と4㎝,上部斜めは2.3㎝です。エの図形は,底辺部3㎝,高さ部分は7.5㎝と6㎝,上部は約3.5㎝です。どの辺も1.5倍になっていることがわかります。このように辺の比が同じ図形は,ウ・エ・オの3種類あると考えました。
 ところが,ケの四角形も辺の比は全てエと同じ1.5倍になっています。実験をしながら,「ケもエと同じ長さだ。これも同じ形?」と迷う子どもの姿も見られました。

 では,ケの図形も「同じ形」と考えてもいいのでしょうか。子どもたちは,
「エは違うよ。だって角が直角じゃないよ」
「同じ形は,辺の比が同じで角が同じじゃなきゃだめだよ」
と声があげます。エとウの図形を比較することで,「同じ形」の判断基準には辺の比だけでなく,角の大きさも必要なことが見えてきました。
 
 この学習は,「拡大図・縮図」の入り口の1時間です。拡大図・縮図だと判断するためには,対応する辺の比が等しいことだけではなく,対応する角の大きさが等しくなければいけないことを,子どもたちが発見するこができました。

2017年6月14日水曜日

校舎の高さ

6年生の「比」の学習の活用場面として,木やビルの高さを求める問題が教科書などに掲載されています。教科書では,次のような課題文になっています。
「木のかげの長さから,木の高さを求めましょう。校庭に立てた0.8mの棒の影は1.2mでした。このとき,校庭の木のかげの長さは12mでした。木の高さは何mでしょう」

十分すぎるデータが含まれた課題文です。この学習で大切なことの一つは,どのようなデータを収集すれば,実測不可能な木やビルの高さを求めることができるのかを子ども自身が考えることです。十分すぎるデータがあらかじめ用意されていては,もはや考える余地はありません。

子どもたちに,次のように投げかけます。
「校舎の高さを求めることはできるかな。あなたなら,どんな方法で高さを調べますか」
先ずは自由に子どもたちに,高さの求め方を考えさせました。
「ビルの上から巻き尺をたらす」
「1階分の高さを調べて,その高さを13倍する」(校舎は13階建て)
「はしご車にのって高さを測る」など

 比を使う考えは,この時点では子どもからは生まれてきません。1階分の高さを13倍する方法は「いいね」と子どもの共感を得ました。ところが,「でも,それってどの階の高さも同じじゃないとだめだよね」と指摘を受けます。それ以外の方法は,いずれも危険を伴う測定方法です。
 そこで「もっと安全に校舎の高さを調べる方法はないかな」と投げかけます。ここが子どもたちには難問でした。やがて「影の長さを測ればいいかな?」という呟きがあがります。この呟きをきっかけに,子どもたちが動き出します。
「そうか,ビルの影の長さを測ればいいんだ」
「影の長さが分かっても,高さは分からないよ」
「だから,同じ時刻に棒を立てて,その影の長さを測るんだよ」
「そういうことか」
「どういうこと?」
「だから,棒が1mで影が0.5mだったとするでしょ。このとき,ビルの影が20mなら,高さはamでしょ。1:0.5=a:20になるから,aは40mでしょ」
「わっかた! 比が同じってことだね。比を使えばいいんだね」

子どもたちの理解には差があります。比を使う視点も,このように少しずつ時間をかけながら共通理解を進めていきました。

太陽が出たときの校舎の影の長さと棒の高さと影の長さを使うことで,校舎の高さを安全に測定できることが分かった1時間でした。その後,晴天の日,上記の考え方を使って校舎の高さを比を使って求めました。子どもたちの測定結果は,ほぼ50m前後でした。実際の高さは約55mです。ほぼ正確な高さを測定することができたと言えます。