2017年2月7日火曜日

「だったら・・・」の向こう側ー分数のわり算ー

子どもたちと,分数÷分数の計算のやり方を考えていたときのことです。先日の公開研究会で公開した授業と同じ場面を,別の場所で行った一こまです。

最初に,6/8÷2/4の計算を考えました。子どもたちは,それまでに学習した分数×分数と同じ考え方で,分数÷分数も計算ができると考えました。分母同士・分子同士をわり算するのです。分数のかけ算の計算方法をわり算にも適用しようとする子どもらしいアイディアが生まれてきました。
この問題は,分子が6÷2=3,分母が8÷4=2なので3/2となります。この答えが正しいかどうかは,このままでは検証できません。そこで,図を描いて確認します。結果は,3/2となりました。この結果から考えると,分数÷分数の計算は,分母同士・分子同士をわり算すれば計算ができそうです。

ところが,答えの確かめを図で考えているときに「でも,われない計算だったらどうするの」と声があがってきました。「例えば,9/10÷2/3だとわれない」と具体例をあげて説明する声が生まれてきました。割り切れない具体例を挙げられる点が,すばらしい発想です。
さて,このままわり算すると,先のわり算は 4.5/3.333・・・ となります。この結果を見て,次の声があがってきました。
「だったら,四捨五入したらどうかな。約5/3と答えを書けばいいよ」
概数の考えと関連づけて考えたのです。とても子どもらしい発想です。概算を使えば,わりきれない中途半端さを解決することができます。私の予想を超えた反応でした。私も「そうか。おもしろいなあ。四捨五入すれば,割り切れない計算もできるね」と子どもたちに投げ返しました。「だったら」から見えてきた子どもらしい発想の背景を理解し共感することも大切です。

この発想,子どもたちから「それでは正確じゃないよ」「分数は正確に計算できるんだよ」と声があがってきて,正確に計算できる方法へと子どもたちの追究は向かっていきました。つまり,分母・分子を6倍ずつします。54/60なら2/3でわることができます。倍分を使った計算方法です。分数同士のわり算は,倍分を使えばどのような式でも計算ができるのです。これなら正確に答えを求めることができます。

「だったら」の向こう側にあるのは,目の前の課題を乗り越えようとする子どもらしい発想です。その発想のよさに共感し,価値づけることも大切です。

2017年2月1日水曜日

子どもの考えと教師の考えのズレ

算数の授業を始める前,「きっと子どもは〜と考えるだろう」とついつい思い込んで授業をスタートしてしまうことがあります。

5年生の子どもたちに,次の問題を提示しました。
「1分間で4/5Lのジュースを作るマシンがあります。分では何Lのジュースを作ることができますか」
 子どもたちは,の中が整数なら計算できると主張します。が整数の場合は,既に学習を終えています。この声と同時に「分数ならどうやって計算するのだろう」という問いが生まれました。が分数になると,分数×分数の計算になります。この計算は,未習です。そこで,2/3の場合を考えることにしました。

 子どもたちは,既習の学習の考え方を使って,何とか計算しようとしました。

  4/5×2/3=12/15×10/15=12×10/15=24/3=

 この式の意味を読解します。「分数のたし算のように,分母を倍分して揃えた」「次に,分数のたし算のように,分子をかけて計算した」と子どもたちは考えました。倍分するアイディアは,分数のたし算からの発想です。分母を揃えたくなる気持ちは,子どもらしい発想です。私は,分母を揃えた後は,その分母同士もかけると考えていました。とこころが,子どもたちは分母はそのままで,分子だけをかける計算を考えたのです。これも,分数のたし算と同じ手続きで計算ができると考えたのです。子どもらしい発想です。子どものノートを見ながら,「そんな風に考えるのか」と感心をしました。分数のたし算の計算方法を活用した,よいアイディアでした。教師が事前に予想した子どもの姿と,実際の姿にズレが生まれた瞬間です。
 ズレに出会うと,何とか教師の想定していた世界に強引に子どもたちを連れて行こうとすることもあります。しかし,多くの場合,その強引な展開はうまくいきません。そんなときは,少し展開を子どもに任せてみます。

 先の考えに対して,次の指摘の声があがってきました。
2/3をかけているのに,答えがかけられる数の4/5Lよりも大きくなるのはおかしい」
かける数と積の大きさの関係からの指摘です。さらに,次の声もあがってきました。
「今の考え方だと,12/15×10/15の計算と12/15×10の計算が同じことになります。最初の式が違うのに,その後の式も答えも同じになるのはおかしい。だから12/15×10/15の計算の仕方は違うと思う」
分数のたし算のように考える方法の矛盾点を指摘する声です。この説明は分かりやすい説明でした。①の計算方法では,うまく計算ができないことが見えてきました。

4/5=12/15 12/15÷3=4/15 4/15×2=8/15

 2番目の式は,1/3分で何Lのジュースを作れるかを求める式です。この意味が読解できた瞬間「あー,分かった」という声がわき起こりました。1/3分当たりのジュースの量を2倍すれば,2/3分のジュースの量が求められます。この考え方は,わかりやすい方法でした。

4/5×2/3=4×2/5×3=8/15

 この式を考えた背景を考えさせました。「分数×整数では,分子だけをかけた。今度は分母があるので,同じように考えて分子と分母をそれぞれかけた」と,子どもたちは考えました。子どもにとっては,理解しやすい計算方法です。
 この考え方を使うと,①の計算は4/5×2/3=12/15×10/15=12×10/15×15=120/225=8/15となります。③の手続きで計算すれば,①の通分する考え方も偶然?にも同じ答えとなりました。


 既習の考え方を活用することで,何とか新しい計算場面を乗り越えることができました。しかし,これらの計算の答えが正しいかどうかはこのままではわかりません。図を描くことで,答えの確かめをしていきます。

2017年1月28日土曜日

論理的思考を愉しむ



左のような図を子どもたちに,一瞬だけ提示します。そして,「周りの長さはどちらが長いでしょうか」と投げかけます。子どもたちの考えは,「円」「ハート(右側の図)」「同じ」の3つに分かれました。子どもたちには,それぞれ理由があるようです。そこで,その理由を共有することにしました。

 円が長いと考える子どもたちは,「上半分の面積は同じ。下半分の面積は,円の方が広い。面積が広い方が長さも長いと思う」という理由でした。面積と辺の長さに比例関係があるという視点です。とろころが,「周りの長さが24㎝の正三角形と正方形で面積が大きいのはどちらの勉強をした時には,角の数が増えるほど面積が増えたから,その考えは違う」という反論が生まれました。10日ほど前の学習を想起した考えが,ここで生まれてきました。そこでの学びを生かせば,面積と辺の長さには比例関係がないことがわかります。その学習をもとにすれば,先の説明は根拠としては正しくないことになります。しかし,「でもそれは,形が違う物同士を比べているでしょ。今の問題はどちらも円だから,前の勉強は当てはまらないと思う」「円だけの特別な場合だから,面積と辺の関係は当てはまるよ」という更なる反論も生まれてきました。
10日ほど前の学習では,周りの辺の長さが同じ場合の,三角形→正方形→正五角形→正六角形→・・・と形を変えた面積変化を比較しました。辺の長さが同じでも,角の数が増えると面積は増えるという事実を子どもたちは発見しました。とろころが今回の問題は,直径は異なりますが,円だけを対象としています。だから,10日前の学習とは状況が異なる特別な場面であることを主張してきたのです。それぞれの主張に,子どもなりの論理が潜んでいます。
算数で大切なことは,このように論理的に自分の考えを創り上げ,主張していくことです。子どもたちが熱く議論を戦わせました。
 一方,ハートが長いと考える子どもたちは,「ハートの下半分の線はクネクネしている。それを下に引っ張ると,円よりも長くなる」という理由でした。ところが,「円の方が長いんじゃない」という見方も生まれました。
 同じ長さと考える子どもたちは,「円の直径が2㎝だとします。ハートの小さい円の直径は1㎝になる。小さい円を2つ合わせた直径は2㎝。合わせるとどちらも同じ直径になるから,全体の長さも同じになる」という理由でした。直径の長さに視点を当てた見方が生まれました。最終的には,この説明に多くの子どもたちが納得をしました。

 では,本当の長さはどうなるのでしょうか。直径2㎝だとすると,長さはどちらも6.28㎝になります。同じ長さになることが,実験で明らかとなりました。この結果をもとに,「だったら,小さい円が4個や6個になっても長さは同じ」という,場面を拡張した考えも生まれてきました。

論理的に考える愉しさを実感した1時間となりました。

2017年1月23日月曜日

見方を変えるすばらしさ!

5年生「正多角形と円」の学習です。教科書に,次のような問題があります。
「半径2㎝の円があります。その半径を1㎝伸ばした円があります。2つの円の円周の長さの違いは何㎝ですか」
教科書には,二重の円の図が描かれています。

多くの子どもたちは,次の式で答えを求めます。
2×2×3.14=12.56
2+1=3
3×2×3.14=18.84
18.84-12.56=6.28  答え6.28㎝

ところが,次のような式をノートにかく子どもがいます。

①1×2×3.14=6.28  答え6.28㎝

この式を見た子どもたちから,「なんでそんな式になるの?」「1は2つの円の差かな。でも,なんでそれを2倍するの?」と疑問の声が次々とあがります。
子どもたちが,この式を読解していきます。
「大きい円から小さい円を切り取った残りが,答えでしょ」
「大きい円周から小さい円周を引くと,それが1×2×3.14になるんだよ」
「2つの式の最初の2と3は違うけど,残りの2×3.14は同じでしょ。だから,最初の3から2を引く。だから,1×2×3.14だよ」

子どもたちは,図と式を比べて読解していこうとします。少しずつ,式の意味が見えてきた子どもたちが生まれてきました。しかし,まだ半数以上の子どもたちは,首をひねっています。①の式の意味を読解することは簡単ではありません。

ところがここで,次のような説明が生まれてきました。
「円周をまっすぐ伸ばします。大きい円は,3×2×3.14の直線です。小さい円もまっすぐ伸ばします。これは2×2×3.14でしょ。この2本の直線の違いが,1×2×3.14になっている」

この説明で「あー,そういうことか」と納得の声があがりました。それまで子どもたちは,長さの違いを丸い二重の円の状態で考えていました。このままでは,その違いは見えにくいままです。ところが,丸くなっていた円をまっすぐに伸ばし,さらにその直線を上下に並べることで,その差が分かりやすくなりました。円のままでは見えなかったことが,視点を変えて直線状に置き換えることで,見えなかったことが見えるようになったのです。

このような見方は,混とんとしている状況を打破するために有効です。算数の授業では,このような価値ある見方を見出し,価値づけていくことが大切です。



2017年1月16日月曜日

円周と直径の関係

円周と直径の長さの関係を子どもたちが目的意識を持って調べる授業は,どのように構成すればよいのでしょうか。教科書(小学校5年)では,「円周は直径の何倍になっているか調べてみましょう」と投げかける展開が多くを占めます。この展開では,子どもは円周と直径の関係を調べさせられているだけです。

そこで,次のような問題を投げかけます。
「周りの辺の長さの合計が24㎝の正三角形と正方形,面積は同じでしょうか」
 正方形が大きいと考える子どもが多数でしたが,正三角形が大きい,面積は同じと考える子どももいました。
 正しい結果を求めるために,先ずは正三角形をノートに作図をして面積を求めます。面積は28㎠になりました。一方,正方形は計算で求められます。面積は36㎠です。この結果を見た子どもたちから,「だったら正五角形はもっと大きくなる」「そうだ!角の数が増えるほど,面積は大きくなるんだ」と,まだ見えていない形を予想する声があがります。このように,子ども自らが場面を拡張して考えていくことが算数では大切な考え方の一つです。

 子どもの予想を確かめるために,正六角形→正十二角形と実験を進めていきます。正六角形の面積は42㎠,正十二角形の面積は44.4㎠となりました。子どもたちの予想は,この結果から確からしいことが見えてきました。

 この結果から,子どもたちは「正何百角形の面積はもっと大きくなる」「だったら,円の面積が一番大きくなりそう」と考えます。一方,「円は正多角形ではないから,違うかもしれない」という考え方も生まれてきました。
 そこで,「円周24㎝の円で確かめよう」と投げかけます。ところがここで,「どうやって24㎝の円を描くの?」「円の長さはどうやって測るの」と声があがります。子どもが持っている定規では,円周の長さを測定することはできません。
 ここで生まれてきたアイディアが,家庭科で使っているメジャーを使うことと,紙テープを円の上に当て,それを開いて長さを測定するアイディアです。子どもたちがノートに作図した円周の長さを,上記アイディアで測定します。その結果,ほぼ24㎝の円を作図することができました。円周がほぼ24㎝の円が作図できたところで1時間目を終わりました。
 
前時,円周24㎝の円を紙テープで作りました。その時,「最初からテープを24㎝に切ってから円を作れば簡単」というアイディアが生まれました。そこで,このアイディアで正確な円の作図に挑戦します。
 紙テープを24㎝に切ります。そのテープで円を作ります。できた円の直径を測定します。その直径をもとに,コンパスで円を作図します。このやり方で,円周24㎝の円が作図できました。

 ところがこの円を作図した後,「でも,いちいちテープでやるのは面倒」と声があがります。決められた円周の長さの円を作図するたびに,テープを使って直径を調べていたのでは手間がかかるという声です。このように地道にテープで円を作図する作業の面倒さを実感する場面から,「もっと簡単に指定された円周の長さの円を作図できないだろうか」という視点への転換が引き出されます。この視点の転換が,新しいきまりへの気づきを生んでいきます。

 子どもから,今度は,「わるさんになっている」「かけるさん」と声があがります。子どもたちは,円周と直径の長さに3倍の関係があることに気づきました。さらにこの3倍の関係は,他の大きさの円でも当てはまると予想をしました。そこで,別の直径を自由に設定し,直径と円周の長さが3倍の関係になっているのかを実験することにしました。

 直径10㎝では円周が30㎝でした。直径6㎝では円周が18㎝でした。直径4㎝では円周が12㎝でした。この他にも,様々な大きさの円で実験しました。どの円でも,円周は直径のほぼ3倍になっていることがわかりました。この関係が分かれば,決められた長さの円周の円を作図するには,計算で直径を求められます。これなら紙テープは不要になります。

 紙テープを使って,自由に実験する場を設定することで,円周と直径の長さの関係を子ども自身が発見していくことができました。