2019年10月29日火曜日

倍を図にするのは難しい

3年生の子どもたちに,次の問題を提示します。

「赤と青のテープがあります。赤のテープの長さは27㎝です。青のテープの長さが赤のテープの長さの6倍のとき,青のテープの長さの何㎝ですか」

子どもたちは,「簡単」と声をあげてきます。計算をして,青のテープの長さを求めていきます。計算をしている中から,「図にできるよ」という声が聞こえてきました。そこで,「図にもできるの?」と子どもたちに投げかけます。全員が,「できるよ」「簡単」と声をあげます。

ノートに図を描かせました。「簡単」と言っていた子どもたちですが,ノートに描かれた図は同じではありませんでした。正しく6倍を表現している図と,そうではない図です。

右の図を黒板に提示します。そして,「この図を描いた友だちに気持ちは分かるかな」と尋ねます。

「赤が青の図の中に,1,2,3,・・・6個分あるってことだよ」
「6個あるからいいね」

ほとんどの子どもたちが,この図に納得しています。ところが,「あれ,なんかおかしい」「7倍」という声が聞こえてきます。しかし,「7倍」という声に対して,「なんで7倍」という声もあがってきます。上の図が7倍に見える理由を,子どもたちが説明します。

「青の1個目と2個目の境目をスタートと考ると,(黒板の図が)6倍に見えてしまう。でも,境目はそこじゃない」
「赤と青が同じなら,それが1個分」
「青の1個分と赤の1個分は同じ長さ」
「青の1個分は1倍,2個分は2倍・・・,6個分は6倍だから,右端は7個分だから7倍になる」
「7個分はいらない」

多くの子どもたちは,赤の真下の青のテープ図の部分を0倍と考えたのです。しかし,その部分は1倍と考えることを,子どもたちは話し合いを通して見いだしてきました。子どもたちが,話し合いを進めるたびに,「そういうことか」「わかった」という納得の声が次々とあがってきました。

この問題の答え自体は,全員が計算で求めることができていました。ところが,それを図に表現するとズレが生まれたのです。図と式の理解度に差が見えた1時間でもありました。

8+8はできない?

1年生は繰り上がりのあるたしざんの学習を進めています。これまで子どもたちは,たされる数かたされる数のいずれか一方を分解し,10を作ってから残りの数とたすという学習を進めてきました。8+3であれば,3を2と1に分解します。その上で,8+2=10と10の固まりを作ります。その後,10+1=11と計算します。このような計算方法について,子どもたちは次のように感じていました。

「だって,10の固まりを作ってから計算した方が簡単だよ」
「10+いくつ は簡単に計算できる。9+いくつ 8+いくつ はわかりにくい」
「7+3+5の3つのたしざんでも,7+3=10を作ってから残りの5をたしたでしょ。10に5をたすと簡単だから,同じように考えたんだ」

10の固まりを基準に考える良さをこれまでの学習で実感しているからこそ,上のような声が生まれてくるのです。

10の固まりの計算を作る過程で,多くの子どもは小さい方の数を分解した方が計算が簡単だと考えました。9+3であれば,10の固まりを考えるときに,「9はあといくつで10ができる」と考える方が,「3はあといくつで10ができる」と考えるよりも簡単に残りの数が見つけられると実感しているからです。

さて,そんな子どもたちに「8+8」を提示します。すると,「えー」「できない」と声があがります。たされる数もたす数も同数です。このタイプの問題とは初めての出会いです。「できない」の声を受けて,「8+8の答えは出せないんだね」と投げかけます。

「答え出せるよ」
「そうだよ。どっちかを分ければいいんだよ」
「私は最初の8(たされる数)をわける」

子どもたちは,たされる数かたす数のどちらかを2と6に分解して,計算を進めていきます。このように考えれば,8+8もこれまでと同じ方法で計算ができます。

ところが,T男がニコニコしながら計算する姿が見られました。T男のノートには8+8の下に7+9の式がかかれていました。7と9では7が小さい数です。そこで,その7を6と1に分解し10を作っていました。小さい数を分解するという前時までの学習に当てはまるように,8+8の式を変身したのです。すばらしい視点です。

T男の式を板書し,次のように投げかけます。

「8+8の式なのに,7+9に変身した気持ちは分かるかな」

子どもたちが説明します。

「8から1ひくと7。8に1をたして9」
「8から1をひいて7にしたから,8に1をたさないとだめなんだよ。だから8+1で9にした」
「1をひいたから1をたさないと答えが変わってしまうよ」
「1をひいて1をたせば,ちょうどよくなる」

1年生なりに,T男の式変形のきまりを説明することができました。8+8の計算を行うだけなら,7+9に変身する必要はありません。しかし,T男の見方は「計算の工夫」などの単元で学習する見方につながるものです。例えば,99+99は(100+100)−2と考えれば暗算でも計算ができます。このような学習につながる見方がT男の見方なのです。1年生でも,式変形につながる見方ができたことに驚きました。

目の前の学習内容とは直結していないけれども,価値ある見方が子どもから生まれることがあります。それらの見方をキャッチし授業の舞台に載せていくことも教師の大切な役目です。

2019年10月28日月曜日

冬の先生応援プロジェクト募集開始!

昨日の秋の先生応援プロジェクトのは,全国各地から多くの先生方に参加いただきました。全国各地のスタンダード模様に一喜一憂する先生方の実態が見えてきました。

さて,次回の先生応援プロジェクトの冬企画の募集が始まりました。詳細・申込先は次の通りです。

●日時
 2019年1月25日(土)10時〜16時

●スケジュール
10:00 ~ 11:00  樋口万太郎先生(京都教育大学附属桃山小学校)
11:10 ~ 12:10  木下幸夫先生(関西学院大学初等部)
13:30 ~ 14:40  尾﨑正彦先生(関西大学初等部)
14:50 ~ 16:00  田中博史先生(「授業・人」塾主宰)

●大会テーマ
 「そのやり方でいいの? 『めあて・まとめ・ふりかえり』」

●会 費
4,000 円(当日会場にてお支払いください)


●募集人数 300名

●会 場
大和大学 講義棟 3 階大講義室B(C302) (〒564-0082 大阪府吹田市片山町 2-5-1)
JR 吹田駅から徒歩7分 阪急吹田駅から徒歩10分


申し込みは次のアドレスからお願いします。

https://gakuto.co.jp/lecture-2/

2019年10月25日金曜日

秋の先生応援プロジェクト満員御礼

10月27日(日)に東京で開催の秋の先生応援プロジェクト,いよいよ開催までわずかとなりました。1日日程ですが,お申し込みいただいた先生方,東京でお会いしましょう。今回のテーマは,次の通りです。

テーマ

「スタンダードに沿う授業づくりは、本当に子どもの思考力を育てられるか」
~対話で子どもの状態をよみとり展開を変えていく勇気を持つ教師を増やすために~

◇講師:
田中博史 先生 前筑波大学附属小学校副校長/授業・人塾主宰
小松信哉 先生 元国立教育政策研究所教育課程研究センター 学力調査官・教育課程調査官/福島大学准教授
尾崎正彦 先生 関西大学初等部教諭

今回の
秋の先生応援プロジェクト,好評により満席となりました。ありがとうございます。


残念ながら申し込めなかった先生方,ご安心ください。次回は冬のプロジェクトの開催が決まっています。日程,内容は次の通りです。


●日時

 2019年1月25日(土)10時〜16時


●スケジュール
10:00 ~ 11:00  樋口万太郎先生(京都教育大学附属桃山小学校)
11:10 ~ 12:10  木下幸夫先生(関西学院大学初等部)
13:30 ~ 14:40  尾﨑正彦先生(関西大学初等部)
14:50 ~ 16:00  田中博史先生(「授業・人」塾主宰)

●大会テーマ
 「そのやり方でいいの? 『めあて・まとめ・ふりかえり』」

●会 費
4,000 円(当日会場にてお支払いください)


●募集人数 300名

●会 場
大和大学 講義棟 3 階大講義室B(C302) (〒564-0082 大阪府吹田市片山町 2-5-1)
JR 吹田駅から徒歩7分 阪急吹田駅から徒歩10分


申し込み開始は,10月27日以降になります。もうしばらくお待ちください。
こちらへの参加もお待ちしております。

2019年10月19日土曜日

1年生の9+4

1年生に次の問題を提示します。
「どんぐりを,K君が9個,S子さんが4個とりました。どんぐりは合わせて何個ですか」

式は簡単に「9+4」と立式できると考えていました。しかし,1年生はそう簡単に授業を先へと進めることを許してはくれません。「絶対に9-4だ」という声が聞こえてきます。なぜ,ここでひき算の式?子どもの論理を理解できますか。

「K君が9個どんぐりをとりました。そのK君のとったどんぐりから4個とった」と考えたのです。1年生は手ごわいですね。

さて,問題場面の共通理解を図ります。その後,「答えは出せるかな」と投げかけます。子どもたちは,「できるよ」「式もかけるよ」「図も描けるよ」と声があがります。

図で考えた子どもたちの思いを読解します。右の図を板書します。9+4の図になっていますが,これも1年生はすぐには全員が理解できません。時間をかけて共有していきます。

その中で,「10の固まりを作る」と説明がありました。そこで,「なんで10の固まりを作ったの?」と問います。

「だって,9のままだとわかりにくいよ。10の固まりだとわかりやすい」
「10と3なら,すぐに13ってわかる」
「10月11日の勉強で,6+4+3の計算をした時も,6+4=10にしてから,10+3をすると簡単だったよ」
「10+□ならすぐに答えがわかるよ」

子どもたちは,既習の3口の計算で10の固まりを作ったことと今回の学習を関連付けて考えたのです。10の固まりで考えるよさを,別の単元でも子どもたちは実感するだけではなく,その関連性を具体的に説明することもできたのです。

1年生も,複数単元にまたがる価値ある見方・考え方が存在することやその有効性に気付くことができるのです。

かけ算の筆算は必要?

3年生の子どもたちに,「1個21円のお菓子を3個買いました。合計はいくらですか」という問題場面を提示します。立式はすぐに21×3とできます。答えも,全員が求められます。

素直に考えれば,21+21+21で求められます。しかし,この求め方に対しては,「かける数が3の時はいいけど,×9とかに大きくなったら大変だよ」と声があがります。具体的事例をあげて,たし算方式の限界を指摘する声です。

かけられる数の21を20と1に分解する考えが生まれてきます。20×3と1×3の計算を行い,それぞれの答えをたすのです。低学年でサクランボ計算などで,位毎に分ける計算を経験しています。その時の見方・考え方が,ここでも生きてきます。
ところが,20×3の計算を巡ってズレが生まれます。(何十)×(一位数)の計算は,この段階では未習です。

「20×3は習ってないからできない」
「簡単だよ。20の0をとって2×3=6でしょ。6にさっきとった0をつければ60になるよ」
「0をつけるって?」
「だから,6に0をたすんだよ」
「6に0をたしても6だよ」
「そうだよ,6+0=6だ」
「だから,たすんじゃなくてつけるの」
「つける・・・?」

(何十)×(一位数)の答えの求め方を形式的に先行学習している子どもによくみられる説明です。「0をつける」という説明は算数にはありません。また,国語的にも誤った表現です。その言葉の意味が理解できない子どもがいるのは,きわめて自然な姿です。この場面は,「0をつける」が理解できない子どもに寄り添い,ていねいに展開していきます。
子どもたちに,「0をつけるってどういうことなの?」と尋ねます。形式だけを理解している子どもは,説明に行き詰ります。一方,素直に考える子どもは別のアプローチをしてきます。

「20×3を10円玉で考えたらどうかな。20円は10円玉2枚でしょ」
「そうか。10円玉2枚なら2×3=6だね」
「6は10円玉が6枚。でも,本当はその10倍だから6×10=60円だ」
「20のままでは計算できないから,20÷10=2と考えるんだね。2×3=6。でも,さっき10でわったから,本当の答えにするために10倍するってことだ」

これらの考え方は,形式を知らない子どもの方がすぐに理解できる傾向が高い事実があります。これからの算数で大切なことは,答えを出すことではなく,答えを導き出すための論理を鍛えることです。20円を10円玉に置き換えるような考え方が大切なのです。

さて,さくらんぼ算のように位毎に分けることで,二位数のかけ算が計算できることが見えてきました。21×3以外の計算も,この求め方で答えを求めることができました。「かけ算は簡単」と子どもたちは考え始めています。

そんな子どもたちに,「もうかけ算は大丈夫だね?」と投げかけます。子どもたちは,元気に「大丈夫」と答えます。それと同時に「百の位でも大丈夫」という声も続きます。子ども自らが計算範囲を拡張してきたのです。このような見方・考え方ができることも大切です。

その後,百の位のかけ算も子どもたちは実験してみます。これも,先ほどと同様に位毎に分けることで計算できるのです。もう,こうなると筆算を今さら使う必要感は子どもたちにはありません。なぜなら,筆算で行っている計算手続きと同じことを,子どもたちは位分け計算で行っているからです。早い段階で筆算の形式を教えるのでなく,筆算と同じ考え方を子どもたちに十分に浸らせることも大切な授業創りの視点です。



2019年10月17日木曜日

人生の夢へ向かって羽ばたこう!

私の母校,新潟県立佐渡高校で全校生徒を対象とした講演会を行いました。高校生相手の講演は初めてです。いろいろ考えた結果,算数の授業を45分ほど行い,15分は講演としました。

算数授業は,私が小学6年生に行った「アートギャラリーの定理」と呼ばれる監視カメラの台数を考える内容です。この素材は,もともとは大学数学でも取り上げられる内容です。高校生も頭を悩ませながら取り組んでくれました。うまくいかなくなると,すぐに近くの友だちと相談する姿や,正しい図形が発見できるとニコニコと喜ぶ姿は小学生と同じでした。高校生もとても素直でかわいいですね。

後半は,学歴社会はすでに崩壊している現実や,社会に出てから活躍する人の能力と大学の学歴は全く相関関係がないことを,日本の社長が選ぶベスト社長に選ばれたことがある永守重信会長の日本電産での事例を紹介しながら話しました。
しかし,学歴社会が崩壊したからといって,学生時代をだらだらと過ごしてもよいのではありません。最終的に社会で活躍する人には,「グリット」と呼ばれる共通の力が身に付いていることがアメリカでの研究で明らかとなりました。その力をこれからの人生の夢を実現するために身に着けてほしいことを述べて講演を締めくくりました。

佐渡高校生,本当に真剣に,かつ楽しく授業と講演に参加してくれました。頼もしき後輩の姿にうれしくなりました。佐渡高校生のみなさん,人生の夢に向かってグリットの力をつけて羽ばたいてくださいね!