2023年4月30日日曜日

数学的な見方・考え方の培い方

 子どもたちの数学的な見方・考え方は,本来子どもには備わっているのでしょうか? このことを考えながら,1年生との算数授業を進めています。

複数の情報から共通点を見いだす帰納的な見方は,一部の子どもには備わっています。しかし,その割合は高学年のそれと比較するとかなり低いと考えられます。

帰納的な見方から,対象場面を拡張していく類推的な見方も,一部の子どもには備わっています。この割合も高学年よりもかなり低い印象です。

また,種類の異なる事象を比較し,それらの事象の共通点や異なる点を見いだすことは,前記の帰納的・類推的な見方と比較すると,それが備わっている子どもの割合は,さらに低くなる実感があります。

理由を考える演繹的な見方は,前者2つの見方よりもさらに低くなります。「だって」「だから」という語り始めの言葉でその理由を説明しようとする子どもの姿の割合は,前者2つよりも多い印象です。しかし,そこで説明される内容は論理的に納得できるレベルではありません。1年生ですから,当然と言えば当然です。

これらのことから,1年生に数学的な見方・考え方は一部の子どもには備わってはいることが見えてきます。ただし,その割合はかなり低いのが実態です。

大切なことは,それらの見方・考え方を引き出すような授業を教師が行うことです。その上で,その声や姿を教師が確実にキャッチしていくことが大切です。これが第一段階です。単なる答えだけに着目して,授業を展開してはいけないのです。

次は,引き出した見方・考え方をクラス全体で共有していくことです。1年生では,これはかなり時間がかかります。ていねいに進める必要がありますね。簡単にはクラス全員に理解されません。

最後は,これらの見方・考え方を価値づけることです。子どもたちは,まだどのように考えることに価値があるのかが分かりません。だからこそ,この時期に答えを出すことがだけが算数授業の目的ではないことを,しっかりと教師が価値づけることが必要になります。

まあ,これらのことは1年生だけはなくすべての学年に当てはまることですけど…。明日から5月ですが,再度,算数授業で大切なことや授業の進め方を見直してみましょう!

2023年4月28日金曜日

10個のブロックなら?

ブロックを使った数の分解シリーズのついに最終場面です。

「10個のブロックだと,階段は何段できる?」

この問いかけに,一斉に「9段」と声が挙がります。そこで,その根拠を尋ねていきます。

「9個のブッロクのとき8段で1個減ったから,10個から1個減って9段」

前時までは増える見方が主を占めていましたが,ここでは減る見方が生まれてきました。1年生の数学的な見方は,一直線では育っていきませんねえ。

ここで減る見方を共有していきます。私としては,ブロック9個以外の世界を子ども自身が広げていくことを期待しましたが,すぐにはその反応は生まれてきませんでした。子どもたちは,「9個で1個減ったから,10個も1個減る」と実に最短経路で結論を導き出して安定していました。そこで,次のように投げかけます。

「1個減ったのは,ブロック9個の時だけのたまたまでしょ?」

偶然性の問いかけです。これにより,子どもが考える対象範囲が広がっていきました。

「前もそうなっていたよ」

「8個は7段で1個減った」

「6個は5段で1個減った」

「5個は4段で1個減った」

なぜか,ブロック7個の声は生まれてきません。そこで,ブロック7個を板書するエリアを意図的に空けておきます。すると,その不自然さに気づく声が生まれてきます。

「なんでそこが空いてるの?」

「分かった! ブロック7個が入るんだ。7個は6段で1個減ってる」

「だから今日も1個減る」

帰納的にきまりを見つける対象範囲を子ども自身が広げて考えることは,1年生のこの段階ではまだハードルが高いことが見えてきました。だからこそ,教師からの意図的な働きかけが必要になることも見えてきました。今回は偶然性の問いかけを行うことで,前述の見方を引き出すことができることが見えてきました。

その後,前時で生まれた1ずつ増えるきまり(かにシリーズ)や同じ数字が斜めに出現するきまりを使っても,10個のブロックが9段になる根拠を明確にしていくことができました。

さて,9段の階段の根拠は共有しましたが,子どもの中には「確かめないと,本当に9段になるのか分からない」と考える子どももいました。そこで,実際にブロックを並べて確かめます。

その結果,階段は子どもたちの予想通りの9段であることが確認できました。また,この活動の中で,「2と8」「8と2」にように色を反対にすることで同じ数字の組み合わせが生まれるバームクーヘンのきまりがあることへの気付きも生まれてきました。

1年生の数学的な見方・考え方の成長や,それを伸ばすための手立てを考えながら,授業を進めてみました。


 

2023年4月27日木曜日

絶対に8段!

 子どもたちに,次のように投げかけます。
「9個のブロックでできる階段は,段かな?」
数のブロックを2つに分解する階段シリーズの続きの学習です。先ずは子どもたちに,に入る数字をノートに書かせました。ここは全員が「8」と記入します。
「8だよ」
「ぜったいに8段」

子どもたちは,自信満々です。そこで,「なんで絶対と言えるの?」と投げかけます。ここから,子どもたちは自信の背景にある論理を語り始めます。

「8個の時は7段。7個の時は6段で1個増えた」
「その前も,6個の時は5段」
「そのまた前は,5個の時が4段で,ブロックが1個ずつ増えた」
「階段が4,5,6・・・と1個ずつ増えた」

ブロックの数と階段の数の両者を比べて関数的に語る説明はすぐには生まれませんでした。そこで,「階段は1個ずつ増えるんだ」と強調します。
すると,「両方一緒だ」と2つの事象を関連付ける声が聞こえてきました。さらに,両手を少しずつ上に同時に動かして,増えていく動作を表現する子どもも現れました。これらの声や動きを時間をかけて共有化していきます。

2つの変化を関連付ける見方は,この段階の1年生では少しハードルが高いことが見えてきます。しかし,一部の子どもはそれができます。そこで,その気付きを時間をかけて共有化し,その見方に価値があることとその見方を自分の言葉で言語化しアウトプットすることで脳に記憶させることが必要となります。この経験値の蓄積が,やがて子ども自身が2つの変化を関連付けていく見方・考え方へとつながっていくと考えられます。

その後,絶対に8段の子どもの考えが正しいのかを実験していきます。結果は,子どもたちの予想通りの8段の階段になりました。
結果が確認できると,「分かった,明日は9段だ」「ブロックは10個だ」と類推的に場面を拡張する声が生まれてきました。この見方は,1年生にも少しずつ浸透してきました。数学的な見方・考え方の引き出し方・育て方をいろいろと試しています。


 

2023年4月25日火曜日

8個は7段でいいの?

 前回の算数では,ブロック7個の分解数を考えました。2つの数に分解する場合は6段(パターン)あることが分かりました。そのとき,Y子が「次は7段になる」とその先を予想しました。この声を受けて,今日の学習を始めました。

先ずは「Yちゃんの予想を実験しよう」と投げかけます。昨日のY子の予想をどれだけの子どもが覚えているのかを,先ずは尋ねてみました。ところが,ほとんどの子どもたちは忘却の彼方でした。これが1年生です・・・。

その後,Y子の予想を共有します。さらに,「7段と予想したY子の気持ちは分かる?」と予想の根拠を読解していきます。

ここでK子が「昨日は7個で6段だった」と既習の学習場面に戻る声を挙げます。ここ数日で鍛えている既習と関連付ける算数の見方が表出してきました。この声をきっかけに,ブロックが7個→6個→5個の場面へと子どもたちは戻っていきました。多くの子どもたちが,ノートを使って,その場面を確認しています。ここもこの数日で鍛えている見方・考え方及び学び方です。

これらの既習から,「ブロック数が1ずつ増えると段数も1ずつ増える」というきまりを帰納的に語らせていきます。さらに,ペア説明でこれらのきまりを再現させます。

さて,子どもたちはブロック8個の段数が7段になることに対して自信を持っています。しかし,その真偽は実験をしないと確かめられません。

そこで,「どんなパターンがあるかな?」と子どもたちに尋ねます。最初に聞こえてきたのは,次の声です。

「赤1個と黄色7個」

1から順に並べようとする思考パターンが見えてきます。このブロックを並べた後,「次はどんなのを並べたいですか」と尋ねます。

「赤4個と黄色4個」

「それなら2個空けないとだめだよ」

「赤の下に2個分空ける」

「2と3の階段が入るから空けます」

子どもたちは,見えない部分の赤ブロックの並びパターンと階段の形状を意識しながら考えを進めているのです。これらも既習のブロックシリーズ学習をベースにして生まれてきたものです。着実に既習が活用されていることが見えてきました。

さて,ブロック8個でできる階段は,子どもたちの予想通りの7段になりました。授業前半の子どもたちの帰納的な見方・類推的な見方の有効性が確かめられました。

さらにここで,次の声があがります。

「明日は,9個で8段だ」

「その次は10個で9段だ」

「そのまた次は11個で10段になるよ」

ここでも類推的な見方が発揮され,次時以降の問いが子どもから生まれてきました。こちらの話題は,次回に取り組みます。

少しずつ,きまりを見つける視点やきまりを楽しむ姿が育ってきました。1年生の学びは素直でスピーディーです。




2023年4月24日月曜日

帰納的・類推的な見方の出発点

ブロックつかみゲームを続けています。ブロックの数が7個になったときのことです。

最初に取り出されたのは,赤2個・黄5個でした。このブロックを貼ります。すると「階段になる」「今日は6段になる」と声があがります。まだ1段のブロックしか貼りだしてはいないのに,その先を予想する声が生まれてきたのです。


そこで,なぜ6段と考えたのか,その気持ちを読解していきます。すると,ここから子どもたちの発想がつながっていきます。


「4月21日は6個で5段だった」

「4月17日は5個で4段。階段が1増えている」

「だから今度も1段増えて6段」

「1個減るのもある」

「ブロック5個は4段で1個減った。ブロック6個は5段で,ここも1個減った」

「今日は7個だから1個減って6段になる」


 子どもたちは,ブロックつかみ過去2回の学習をもとに,ブロック7段の段数を予想していきました。算数では,複数の情報から決まりを見つける学習が繰り返されていきます。帰納的な見方と呼ばれる考え方です。子どもたちは,この見方を使って,未知のブッロク7個の場合の段数を予想することができたのです。この段階でここまで考えられるのは,すごい子どもたちです!

 

その後,本当に階段が6段になるのかをブロックを並べて確かめていきます。結果は,子どもたちの予想通りになりました。


すると今度は「8個なら7段になる」「9個なら8段」「10個なら9段」と,さらに先の階段数を予想する声も生まれてきました。こちらは類推的な見方です。


この時間,帰納的な見方・類推的な見方の両者が生まれてきました。しかし,これらの見方ができる子どもはまだ一部です。だからこそ,その声の意味を時間をかけて読解し共有するとともに価値づけていくことが必要になります。1年生のこの段階からの教師の意図的な働きかけがなければ,子どもたちの数学的な見方・考え方を培うことは難しいのです。

2023年4月23日日曜日

「めあて」「まとめ」は本当に必要ですか?

授業の冒頭に「めあて」を板書し,終末には「まとめ」を板書する。これって本当に必要ですか? このことに疑問を感じた訴えが声が私に届きます。

「めあて」「まとめ」を板書するのは誰のためですか? 教師の自己満足ではないですか?

「めあて」「まとめ」を板書することで,教育効果が現れるという一部の識者がいますが何を根拠にそう述べているのでしょうか? まさか子どもへのアンケートではないとは思いますけど。子どものアンケートの客観性はかなり低いです。昨日と今日では同じ設問でも異なることを答えることは現場教師なら実感として知っているはずです。

本当に効果があると述べるためには,実証実験が必要です。「めあて」「まとめ」を板書したクラスとそうではないクラスを数年かけて追跡調査するのです。しかも,そのための子どもの人数は相当数必要です。効果があるか否かを判断するには,比較実験が必須です。医薬分野では当然のことです。しかし,このような実験を行っていないのにも関わらず,「効果がある」と述べるのはいかがでしょうか・・・。

東北大学加齢医学部の川島隆太先生は,スマホが子どもの学びに与える影響について仙台市教育委員会と協力して,7万人の児童・生徒を対象に9年間の追跡調査を行っています。ここでも比較実験を行っています。従って,川島先生のデータや所見は納得ができます。

大切なことは,今,何がクラス全体で問題(問い)になっているのかを全ての子どもが自覚化することです。その問いは,時々刻々と変化していきます。問いを子どもが自覚化しているかどうかが重要なのです。板書したからといって,そのめあてを子どもが自覚化しているとは限りません。多くの場合,教師が授業冒頭に板書する「めあて」は,子どもが解いてみたい問いにはなっていません。単なる命令文です。それでは意味がないのです。

また,前述した通り,時々刻々と問いは変化します。従って,授業冒頭の「めあて」が45分間も続くことは通常ではありえません。 

新年度の授業がスタートして2週間。自分の授業スタイルを見直してみませんか?

2023年4月22日土曜日

あの名著!?が復刻かも・・・

 国立教育政策研究所の算数教科調査官を務められた小松信哉先生から,

「尾﨑先生の“ズレ”を生かす算数授業―子どもがホントにわかる場面8例ーは名著です。私の授業バイブルです」

と絶賛されたことがあります。明治図書から発刊されたこの本は,現在は手に入れることができません。かなり前に発刊されていますので絶版扱いになっています。

ところが,明治図書ではこの本の復刻投票を行っています。この名著!?をお読みになりたい先生方,是非,以下の明治図書ページから復刻への1票を投じていただけたら幸いです。

https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-529917-6