2018年6月27日水曜日

たしたのにたす?

たしざんの暗算の学習を終えた3年生の子どもたちに,次のように投げかけます。
「ひき算の暗算もできるでしょうか」
子どもたちは,「できるよ」と声をあげます。しかし,「繰り下がりがあると,大変そう」という声もあがります。暗算を行った場合,どの部分の計算が難しいのかが子どもたちなりに見えているようです。

そんな子どもたちに,「71—46」の問題を投げかけます。多くの子どもは,一の位と十の位を分けて計算していました。答えが25になることを確認します。その後,「どうやって25と答えを出したの?」と尋ねます。

N男が次の説明をします。
「71−46を71−50にします」
この説明だけで,教室は騒然となります。「なんで50にするの」「そうか」と賛否両論の声があがります。

前者は,46を,なぜわざわざ50にしたのか理解できない声です。一方,後者の声は50にした意味を理解した声です。
「4をたせば50になって,引きやすくなる」
「繰り下がりがなくなる」

繰り下がりの面倒さを消すために,46を50に変身したのです。これで,子どもたちも46を50に変身した理由に納得です。

71-50=21となります。しかし,これは本当の答えではありません。N男が式の続きを説明します。
「さっき4を増やしたから,今の答えを21−4=17・・・,あれ,違う。21+4=25だ」
N男は,46に4を増やして50にしたのだから,答えは4減らさなければいけないと考えたのです。ところがそれでは,本当の答え25から遠くなってしまいます。それに気づいたN男は,慌てて21に4をたしたのです。
ところが,この説明に疑問の声があがります。
「なんで4をたしたのに,4をまた増やすの?」
「4をたしたんだから,4を減らさなければだめだよ」
「4たさなければいけないという人は,本当の答えが25と分かっているから,4をたすと言っているんだよ」
「本当の答えが分かっていなければ,それは分からないはずだよ」
「46を50にして,4多く減らしたでしょ。だから,答えも4多くしなければいけないんだよ」
「えー,なんで4をまた増やすの?」

46に4を増やしたのに,なぜ,答えの21にさらに4を増やすのか,子どもたちは混とんとしてきました。ここまで子どもたちは,式と言葉だけで話し合いを進めていました。

そこで,次のように投げ返します。
「なぜ4を増やせばいいのか,よく分からないね。言葉でうまく説明できないとき,なにかいい方法はないかな?」
この投げかけに,「図だ」と声があがります。具体物を使って考えれば,この混沌とした状況を打破できるかもしれません。

子どもたちは,10円玉7枚と,1円玉1枚を板書します。50円を減らすので,10円玉の絵を5枚消していきます。この部分までは,子どもたち全員が理解できました。しかし,その後,4円を増やす理由が,まだ見えてきません。
そこで,次のように絵を見ることを促しました。
「みんなは71円持っています。お母さんが46円貸してと言いました。残りは何円になるか考えます。でも,繰り下がりがあって面倒だから,50円をお母さんに貸したということだよね」

絵の状況を,お母さんがお金を借りるという設定にしました。この設定で,子どもたちが動き始めます。
「そうことか,わかった」
「だから,50円貸したんだよね。本当は46円なのに,4円多く貸したから,21円に4円をたすんだよ」
「4円多く貸したから,おつりの4円をお母さんからもらわなければいけないでしょ。だから,おつりの4円をたして21+4=25円だよ」

「おつり」という言葉で,子どもたちが納得しました。

暗算の問題を通して,計算の工夫の視点が生まれてきました。その工夫の背景にある論理的に考える姿を,子どもたちとともに創り出した1時間でした。