2022年4月10日日曜日

「おもてなし」の心を育てるために必要な教師の眼

 子どもとの出会いの1日目に,一人一役の当番活動を決めました。「配り」「1時間目ホワイトボード消し」「日直カード」などのお仕事を,クラス全員で分担します。

大切なことは,一人一役の当番活動を決めた後です。仕事分担を決めた後,「配り係さん,配りものをお願いします」と声をかけ,60冊のノート配布をお願いしました。しかし,この60冊を一度に当番の子どもだけで配布するには限界があります。ノートの半分ほどは,まだ残っています。すると,この状況を見た子どもの中に動き出す子どもが何人もいます。自分の当番活動ではないのに,大変そうな友だちの姿を見て,手伝おうと考えたのです。このような姿を見逃さずに価値づけることが大切です。これも「おもてなし」の心を育てることへとつながります。

実はこの時,もっと素敵な動きをしているK子の姿が見えました。K子も配り当番ではありませんが,ノートを配る手伝いをしようと動き出しました。ところが残ったノートのところに着くころには,その束はなくなっていました。すると,K子の視線はホワイトボードへと動きました。K子はホワイトボードの板書が消されていないことに気付き,進んでそれを消してくれました。なんという素敵な行動でしょうか。

配りの仕事を手伝ってくれた子どもたち,さらに,新たな仕事を見つけて動いてくれたK子の行動の価値を説明し褒めました。さらに,これらの行動がクラスの目標でもある「全国の小学生のお手本となる考動する日本一の最高クラス」に合致することも説明していきます。

子どもは価値ある行動の意味を理解することができれば,その方向へと育っていきます。大切なことは,小さな価値ある行動の動きを見逃さない眼を教師が持ち続けることです。これは,算数の授業で価値ある呟きや動きを見逃さない教師の授業技量とも共通するものです。

2022年4月9日土曜日

「おもてなし」の心 その2

 6年生スタートの2日目の朝のことです。封筒を提出することになっていました。その様子を観察します。

最初の子どもが,封筒を裏向きで提出しました。すると,それを見ていたH君が怪訝な表情に変わりました。すかさず「H君,なにかを思ったんだね」と尋ねます。すると,「うん」と言います。やはり何かを感じたのです。そこで,「H君が思ったことをやってごらん」と投げかけます。

さて,H君はなにをしたと思いますか。H君は裏返しに出された封筒を表向きに変えてくれました。封筒の表には,子どもたちの名前が書かれています。そのため封筒の上下も見ただけですぐに分かります。表向きで封筒を出すよさは,ここにあります。

その後,他の子どもたち封筒を提出にきました。その際にも,H君は封筒の向きが揃うように声掛けをしてくれました。

提出物の向きを揃えて出すことは,全体のことが見えていないとできません。自分の封筒のことだけしか考えていないとできないのです。全体を見渡す目を持つことも,社会人として必要な力であり,「おもてなし」の心の基本でもあります。

実は封筒の向きを揃えることができな子どもは,テストなどでのケアレスミスが多いという共通点もあります。

この日は,別のカードも提出することにもなっていました。そのカードが提出された場所では,K子さんが「番号順に並べた方がいいよね」と言って,出席番号順にカードを並べ直してくれていました。これもすばらしい「おもてなし」の心です。

子どもたちのこれらの行動を,すべて価値付け褒めていきました。すると,今度はこの行動が他の子どもたちにも広がっていきます。めざすべき「最高クラス」に向けて「おもてなし」の心もランクアップしています。

「最高学年」の意味

 算数マイスターのブログですが,ここ数回は算数とは異なる話題になっています。まあご容赦ください。

6年生とのスタートの日,最初に子どもたちに投げかけたのは次の質問です。

「君たちは今日から6年生です。6年生には,別の言い方があります」

これはすぐに分かります。「最高学年」です。そこで,今度は次の質問を投げかけます。

「最高学年って,どういう意味ですか」

「一番上の6年生ということ」という声があがります。もし,この論理が正しいとしたら,1年生は「最低学年」とも呼べることになります。しかし,このような言い方はしません。そうだとしたら,「最高学年」には別の意味があることになります。そこで,「最高学年」の意味を子どもたちに再考させます。

「1年生を引っ張っていくリーダーになる」

「1年生のお手本になる」

よい見方が生まれてきました。下級生のお手本となる最高の姿を見せる学年であるからこそ「最高学年」と言うのです。この言葉の本当の意味をクラス全体で共有します。その上で,全校のお手本・全国の小学生のお手本となる最高クラスを作ることを,1年後のゴールとすることをクラス全員で確認しました。共通の高い目標をもって,6年生のクラスがスタートしました。

この共通目標を常に振り返りながら,1年の生活をスタートしていきます。

社会人として必要な「おもてなし」の力

 学校教育の目的は,教科を中心とした知識や考え方を教えることだけだと私は考えてはいません。実は,これよりももっと大切なことを教える必要があると考えています。それは社会人になった時に必要な力です。社会人に最も必要な力は,チーム力です。ほとんどの仕事はチームで行います。たとえ個人営業だとしても,周りの社会と関わらなければ生計は立てられませんから,結局どんな仕事にもチーム力は必要になるのです。

チーム力の根本にあるのは「おもてなし」の心だと私は考えています。この心を,子どもたちと出会った最初の3日間は徹底的に引き出していきます。

子どもたちと出会った1日目,ファイルを配布しました。そのファイルは10冊ずつ,ビニールで包まれていました。最初のファイルの束の包み紙を外します。ここで子どもが動き出す瞬間を待ちましたが,なにも起こりません。そこで,2つ目のファイルの束の包み紙を外します。残念ながら,また何も起こりません。そこで,3つ目のファイルの束の包み紙を大げさに放り投げました。

すると,ある男のがその包み紙を目で追う姿が見えました。それと同時に,足がファイルに向かって動き出しました。それを見ていた別の女の子も動き出します。2人の子どもが,合計3つのファイルの束の包み紙を捨ててくれました。

彼らの行動のどこにどんな価値があるのか,また,その行動を起こした勇気と実行力を大げさに褒めました。どのような行動に価値があるのを教えることは,大人の大切な役目です。本来は,このような力は家庭教育・地域教育が担うべきものです。しかし,残念ながらその教育力はほぼ期待できないのが現実です。

ファイルを配布してから1時間後,今度はノートを配布します。このノートもビニールで包まれています。すると今度は,包み紙に私が手をかけると同時に,多くの子どもたちが「ゴミを捨てます」と集まってきてくれました。価値ある行動を自分化して実行に移すことができたのです。6年生でも素直でかわいい瞬間はたくさんあるのです。

包み紙をわざと子どもの前ではがすのは,意図的仕掛けです。こんな仕掛けを,子どもとの出会いの3日間ほどはたくさん用意しておきます。その上で,その仕掛けを乗り越える子どもの姿を見つけることに全神経を集中していきます。すると,教科学習とは異なる子どもの素敵な姿がたくさん見えてくるのです。

「おもてなし」の心につながる子どもの行動を引き出し,価値づけることで,クラスの空気感はどんどん温かいものへと変化していきます。今年もよい1年が送れそうです!

こんなときどうする?

今年は6年生を担任しています。子どもたちとの出会いの日,次のようなゲームを行いました。これは,春休みの講座で田中博史先生から教えていただいたものです。


子どもたちと自己紹介ゲームです。自分の名前ではなく,「太郎」「ジュリー」など新たな名前でゲームを行います。集まった子どもたちで,「私は太郎です」→「私は太郎の隣のジュリーです」→「私は太郎の隣のジュリーの隣の花子です」のように自己紹介を行い,最初の子どもまで戻ったら終わりというゲームです。

 先ずはグループ作りを行います。私がタンバリンを4回叩きます。30人クラスですから,あふれる子どもが生まれます。意図的に4回叩いたのです。子どもたちに,このような場面に出合ったらどうするのかを考えさせるためです。

 6人の子どもが残り,どうしたらよいのか悩んでいました。そのとき,「だったら3人で座ればいいじゃん」という優しい声が聞こえてきました。よい考えです。

 

 ところが,「それって不公平だ」と声が続きます。4人チームと3人チームが混在しています。このままでは,3人チームが有利です。


 すると今度は,「だったら,3人チームは誰かがもう1回言ったらいいじゃん」と新たな解決のアイディアが生まれてきました。これも素敵な考えです。これで一件落着ですよね・・・。


 しかし,ここで子どもが気付きます。

「やっぱりだめだよ。3人の最後に言う人は名前を知っているから,もう1回同じ名前を言うだけだから有利」

 

 この論理分かりますか? 子どもはすごいですね。1人がダブって言っても不公平になることに気付いたのです。だって同じことを繰り返すだけですから,新たに覚える名前はないのです。


 すると今度は,「だったら最後に言う人が,最初とは別の名前を言ったらいいんだ」と公平にするアイディアが生まれてきました。つまり2人分の名前を考えておくということです。なるほどよいアイディアです。


 簡単なゲームですが,6年生で学習する「場合の数」にもつながる見方が生まれてきた瞬間でした。いろいろな面で,子どもたちの素晴らしさを実感したゲームでした。

2022年4月7日木曜日

 明治図書から発刊予定の

算数授業の当たり前を「子どもの姿」から問い直す〜Reデザイン問題解決の授業〜」

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はじめに
第1章 本当の「問題解決」とは
問題解決学習の役割と課題
「授業・人」塾主宰 /田中 博史
1.育てたい「問題解決の力」を問い直して
2.現場の先生が感じている,問題解決「型」授業の課題
3.子どもの姿から「当たり前」を問い直す
4.先人の理論の本質を読み解く
5.子どもの状況を観察し,その事実によって教師が方法を使い分ける
―日々の授業は教師にとっての問題解決の連続
だれのための問題解決なのか
関西大学初等部 /尾﨑 正彦
1.問題解決「型」ってわかりやすい!?
2.「自力解決」で抱いた違和感
3.「考えの発表」で抱いた違和感
4.「練り上げ」で抱いた違和感
5.教師のための「まとめ」
6.問題解決「型」授業は1時間で終わらない
第2章 算数授業の当たり前を問い直す
全国の算数教師の経験則に基づく,本当に役立つ授業の「型」の提案
めあて・まとめ・振り返りを問い直す
子どもの実態に合わない「めあて・まとめ・振り返り」を止め,問いの鮮度を意識した授業をつくろう
関西大学初等部 /尾﨑 正彦
[田中博史の分析・解説]子どもよりいつも先に動いてしまう教師の意識改革に取り組もう
既習を使った問題解決を問い直す
既習と未習が結びつく喜びを子ども自身が感じる授業をつくろう
横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校 /山本 順一
[尾﨑正彦の分析・解説]復習はさせるのではなく,子どもがしたくなる瞬間を引き出す
[田中博史の分析・解説]既習の活用も,問いづくりも,大切なことは子どもたちの必要感をどうつくり出すか
問題提示を問い直す
素直な感覚を引き出し,算数の表現に変えていく過程を共有しよう
東京都江戸川区立南篠崎小学校 /木村 知子
[尾﨑正彦の分析・解説]感覚から論理の世界へ授業をデザインする
[田中博史の分析・解説]自力解決は,修正されることを前提に授業を構成する
自力解決を問い直す①
人が人らしく学ぶという視点で,自力解決の時間を考え直そう
昭和学院小学校 /平川 賢
[尾﨑正彦の分析・解説]「自力解決」ではなく「問い見つけ」と捉えよう
[田中博史の分析・解説]「自力解決」という言葉に対する概念を多様化させよう
自力解決を問い直す②
「問い」が変化することを大切にする
元佐賀県公立小学校 /浦郷 淳
[尾﨑正彦の分析・解説]「自力解決」は,答えが出ても出なくてもかまわない
[田中博史の分析・解説]「自力解決」に向かう子どもの価値観をどう育てるかを意識する
自力解決を問い直す③
画一化された時間を少し変えると見えてくるもの
京都府南丹市立八木西小学校 /谷内 祥絵
[尾﨑正彦の分析・解説]自力解決の場を選択できる柔軟性と型式指導の柔軟性
[田中博史の分析・解説]目的に合わせて自力解決の仕方も変える
比較・検討を問い直す
子どもたちのわかりづらさや疑問を共有し,みんなで問題に立ち向かおう
東京都豊島区立高南小学校 /河内 麻衣子
[尾﨑正彦の分析・解説]話し合いたいと考えていないのに,無理に話し合わせていませんか?
[田中博史の分析・解説]子どもの必要感で比較・検討の時間をもつ
対話活動を問い直す
形態にとらわれず,子どもが話したいと思える「自由対話」と「仕組む対話」
大分県別府市立亀川小学校 /重松 優子
[尾﨑正彦の分析・解説]対話したくなる思いを引き出すことと,子どもの意識を高めること
[田中博史の分析・解説]「自由対話」と「仕組む対話」にさらに細かな表現の過程を意識する
練り上げを問い直す①
その子らしい捉え方を大切にし,修正に開かれた練り上げを意識しよう
新潟大学附属新潟小学校 /志田 倫明
[尾﨑正彦の分析・解説]子どもの論理を読解する場面設定が思考力を高める
[田中博史の分析・解説]練り上げの時間に子どもの困り方の原因が見えてくる
練り上げを問い直す②
高学年でも発表する子どもに育てるために
雙葉小学校 /永田 美奈子
[尾﨑正彦の分析・解説]小刻みな読解をヒントとして練り上げを活性化させる
[田中博史の分析・解説]子ども同士の考え方を交流させるときのポイント
練習問題を問い直す
子ども自身が学びを広げていくことを大切にしよう
鹿児島市立清和小学校 /福島 淳子
[尾﨑正彦の分析・解説]練習問題をクラス全体でつくり上げる価値
[田中博史の分析・解説]「つくる」活動をすると見えてくるものがある
習熟を問い直す
問題の量だけを意識した習熟の時間を考え直そう
宮崎市立江平小学校 /桑原 麻里
[尾﨑正彦の分析・解説]何のために習熟させるのか
[田中博史の分析・解説]パターンで解くだけの適応問題からの脱却を
まとめを問い直す
数学的な見方・考え方の変容を「小さなまとめ」で価値づけよう
兵庫県西宮市立鳴尾東小学校 /久保田 健祐
[尾﨑正彦の分析・解説]「まとめ」は授業終末に行うものだと決めつける必要はない
[田中博史の分析・解説]「型」を2つの視点で柔軟に捉え,役立つものにしていこう
第3章 経験則からつくる授業の羅針盤
尾﨑正彦が使い分けている授業構成とその意図
関西大学初等部 /尾﨑 正彦
1.問題の一部提示と子どもに任せる展開
2.2つの考え方を対立させながらブラッシュアップ
3.1つの考え方の共有と汎用性の検証
4.複数の考え方の比較と使いやすさの場合分け
5.考え方0からの話し合い
6.考え方の理解から単元全体の課題発掘へ
田中博史が使い分けている授業構成とその意図
「授業・人」塾主宰 /田中 博史
1.経験則から授業の拠り所を整理する
2.問題を子どもたちに伝える場面
3.授業の中心課題となる問いの発生
4.問いの発生は,大きく分けて2通り
5.展開場面で意識することは,わかることとわからないことの境界線を探る活動
6.算数でも常に子どもの心情をはかる言葉かけを意識する
7.振り返りやまとめは必要なときに行う

2022年4月5日火曜日

「子どもが動き出す算数授業&学級経営講座」のご案内

 いよいよ新年度が始まりました。新しいスタートに向けて,先生方も張り切っていらっしゃるのではないでしょうか。

さて,「子どもが動き出す算数授業&学級経営講座」をオンラインで開催します。主催は新潟大学教育学部附属長岡小学校です。

開催期日 2022年5月26日(木) 18時〜20時

詳細は決まりましたら,またお知らせします。