2018年5月1日火曜日

わり算なのにかけ算?

3年生で初めて出合う演算は,「わり算」です。このわり算に対する感覚は,子どもによりかなり異なります。

子どもたちに次のように投げかけます。
「12個のクッキーがあります。人で同じ数ずつ分けます。1人分は何個でしょう」

 の中がどんな数なら等分できるのかを,子どもたちに投げかけます。子どもから生まれたのは,「12人」「6人」「4人」「3人」「2人」「1人」でした。大人が考えると,どの人数でもわり算はできます。ところが,子どもたちは「1人はおかしい」と主張します。
「だって,1人では分けたことにならない」
「問題に同じ数ずつと書いてあるのに,1人では同じ数ずつにはならない」
「1人では独り占めになるから,わけてない」

子どもたちは,問題文に正しく向き合って「1人」がおかしいことを主張してきたのです。わりざんを知っている大人は,形式的にわりざんを考えてしまいがちですが,子どもはもっと素直であることを実感した瞬間です。

さて,まずは「3人」だったら1人分は何個になるのかを考えました。子どもからは,「かけ算でできるよ」という声があがってきました。この時点では図や具体物を使う考えは生まれませんでした。
そこで,子どもたちが考えた方法で問題を解かせてみることにしました。多くの子どもたちは,「3×4=12」とノートにかけ算の式を書いていました。
そこで,この式を板書します。かけ算で考えた理由を尋ねます。
「3の段のかけ算だから」
「3×4が12だから」
「12になるかけ算は3×4だから」
説明が続けば続くほど,半数近くの子どもの表情が曇ってくるのがわかりました。かけ算で考える理由が,うまく伝わっていないのです。その後も子どもたちのかけ算の説明が続きます。しかし,表情は曇ったままです。

12個のクッキーを分ける問題です。答えは,明らかに12個よりは小さくなります。それなのに答えが増加するかけ算を使うことに,違和感があるのです。この感覚は子どもらしいものです。かけ算を使う子どもは,すでにわり算の意味や答えの求め方を知っているのかもしれません。わり算の全体像が見えている子どもにとって,かけ算を使うことは自然なことかもしれません。ところが,まだわり算を知らない子どもにとってはかけ算を使うことは不自然なのです。

この授業では,「かけ算を使うことは難しいね。もっと簡単に考える方法はないかな」と方向転換することにしました。
「だったら絵を描けば簡単だよ」
「それなら,すぐにわかりそう」
子どもたちの視点が,この時点で図に転換しました。
図を描くことで,子どもたちは1人分のクッキーの数を4個と求めることができました。

授業では,絵でクッキーを描く場合のクッキーの丸をどの順で描くのかを全員で考えました。本問題は等分除です。従って,丸は1人目に1個,2人目に1個,3人目に1個と描きます。この部分をていねいに扱いました。

最後に,「図を使えば,クッキーを分ける問題は簡単に答えが見つけられるね」と投げかけます。「数が変わったらできるかな」「クッキーが100個とかだと大変そう」と声があがります。図の限界に気づいた声です。この声をもとに,次の時間はクッキーの数を変化させて授業を進めました。

分けることに対する子どもの素直な感覚が引き出された授業でした。