2018年7月14日土曜日

教科書の向こう側に見えるもの

3年生の「時刻と時間」の単元です。この日は,いろいろ策を考えたものの,よい案が浮かばず,教科書通りの展開で授業を始めました。提示したのは,次の問題です。

「午前7時50分に家を出ます。20分で学校に着きました。学校に着いた時刻を求めましょう」

多くの子どもたちは,7時50分+20分=8時70分,70分=60分+10分=1時間+10分だから,午前8時10分と考えました。同じ位同士を整数のたし算と同じようにたしたのです。この方法は,子どもたちも納得です。教科書にもある解決方法です。

ここで,K子が「別の方法があります」と手をあげます。K子は次の式を発表しました。

「7時50分に10分をたして,8時にします。そして,8時+20分=8時20分にします。さっき10分をたしたから,10分を引いて午前8時10分とします」

これを聞いた子どもからは,「なんでそんなことするの」「めんどうだよ」「8時にしたら,お話が変わっちゃうよ」と声があがります。そのまま計算することで納得していた子どもたちには,K子の考え方は面倒と感じられたのです。

ところがここで,Y子が「K子さんの気持ちが分かります」と声をあげます。

「これは前の勉強と同じです」

聞いていた子どもたちは,首を捻っています。私も,この段階ではY子の思いがまだ見えませんでした。Y子が続けます。

「これは暗算と同じです」

この説明に「あー」という声があがります。私も,この説明でY子の言いたいことが見えました。しかし,まだ多くの子どもたちには,Y子の気持ちは理解できていません。Y子が続けます。

「もし,39+41という計算があったとします。この39に1をたして40にしましたね。40+41で81。さっき1をたしたから81-1で80でしょ。これと同じです」

Y子の話を聞いていた子どもたちも,納得です。Y子は暗算で学習した工夫して計算する考え方が時間の計算にも共通していることに気づいたのです。そのことを,39+41という具体例を自ら取り上げることで説明したのです。すばらしい考え方です。

Y子の考え方は教科書にはありません。しかし,数学的に優れた考え方です。教科書通りの授業でも,このような見方・考え方は子どもから生まれてくるのです。その瞬間を見逃さず,その考え方を教師が取り上げクラス全体に共有化することが大切です。もちろん,その考え方を価値づけることも大切です。

子どもが教科書を大きく乗り越えていった1時間だったと言えます。