2016年9月25日日曜日

ループ理論で分数のたし算を構成する

5年生に「分数のたし算・ひき算」単元があります。教科書では,通分・約分の学習を終えてから,異分母分数のたし算の学習へと進みます。系統性を意識した展開です。しかし,この展開では分数のたし算場面で子どもが問いを感じることはありません。通分・約分は,異分母分数のたし算で子どもが困らなようにするために位置づいているからです。
アクティブな子どもを育てるためには,子どもが学習内容に必要感・問いを持つことが大切です。そこで,通分・約分と分数のたし算を同時進行で進める展開を行いました。
子どもたちに,「ブロックつかみどり大会をしよう」と投げかけます。1回戦は,1/6の大きさのブロックだけがつかみとられました。この場合は,同分母なので既習の計算で合計得点が求められます。2回戦は,1/6と1/3の大きさのブロックがつかみとられました。「分母が違うから計算できない」「さっきは基準(分母)が同じだから計算できたけど,これでは基準が違う」「基準が同じならいいのに」と,子どもたちは異分母のブロックに出会って感じたことを表現してきます。問いが生まれました。
その後,子どもたちはブロックを使って1/3が2/6と同じ大きさであることを見つけていきます。つまり,1/3を2/6に変身することで同分母同士のたし算へと変換できます。通分を学習していない子どもたちは,ここでブロックという具体物で分数を変換する方法を見つけていきます。
ブロック操作で分数を変換することを見つけた子どもたちに,「そうか,ブロックを使えば同じ分母の分数に変身することができるんだ」と念押し発問を行います。これに対して,「ブロックを使わなくても,計算でわかるよ」「だって,1/2と2/6は1/3をもとにすると,分母も分子も2倍ずつすれば2/6に変身できるよ」と,計算で同分母の分数を見つける方法にも気付いていきます。
異分母分数のたし算との出会いで感じた問いから,子どもたちは通分の必要感に気付き,その方法も見つけることができたのです。
時には,単元構成の配列を見つめ直すことで,子どもがよりよく問いを感じるアクティブな展開を進めることができますね。このように単元構成を入れ替える授業構成方法を,元聖徳大学教授・手島勝朗氏はループ理論と命名しました。

2016年9月18日日曜日

当事者意識から問いを引き出す

子どもたちに「ブロックとばしゲームのチャンピオンを決めよう」と投げかけました。4人1組でゲームを行います。ゲーム用紙の上でブロックを指ではじいて得点を競うゲームです。ゲーム用紙には,様々な大きさの円が描かれています。ブロックがそこに入れば5点獲得です。スタートラインに近い位置の円は小さく,遠い位置の円は大きくしてあります。簡単なルールのゲームです。

子どもたちは大喜びでゲームに興じました。ゲーム終了後,班のチャンピオンを発表してもらいます。「A君 10点」「B君 15点」「C君 10点」などと発表が続きます。D君の発表の時です。一瞬静まり返った教室が,あっという間に喧騒に包まれました。「D君 20点」この結果を聞いた一部の子どもたちが騒ぎ始めます。「なんで?」「それはありえない」「おかしい」「3回しかしていないのに,絶対にそれはない」・・・。実は,班によってゲームの回数が異なるように仕掛けをしておいたのです。D君の班は5回ゲームを行いました。一方,3回・4回の班もありました。彼らは,猛烈に抗議をしてきます。

「おかしい」と叫ぶ理由をクラス全体で共有します。「だって,班によってゲームの回数が違ったら不公平だよ」と説明します。もっともな理由です。そこで,どうやったら正しくチャンピオンを決められるのかを考えさせました。

「4回目以降の結果を使わない」という考えが生まれました。ところが,6回のゲーム回数だった班もあります。その班のT子は,4~6回目に得点をしていました。4回目以降を使わないと,「T子がかわいそう」という声があがります。

「公倍数を使えばいい」とう考えも生まれます。前単元で学習した内容を活用した考えです。ところが,この考えに対して「めんどうだよ」「今はいいけど,別の回数だったら大変」と声があがります。今回は,3回・4回・5回・6回のゲーム回数です。4種類の数値の公倍数を求めることは容易ではありません。さらに,「11回,19回,23回,29回とかの素数回数になったら大変すぎる」という声もあがります。見えてきた解決方法を一般化しようとする視点が,この時点で生まれてきたのです。子どもたちの鋭い視点にびっくりしました。

「倍数がだめなら減らしたらどうかな」「だったら1回あたりにしたらどうかな」「D君なら4回ゲームして20点だから20÷4=5点でしょ。1回当たり5点だね」「それなら簡単だね」と,今度は1回当たりのゲーム回数で考えるアイディアが生まれてきました。公倍数は,全体のゲーム回数を増すと仮定して考えました。ところがその方法に限界を感じた子どもたちは,逆思考で減らすことを考えたのです。この逆転の発想にもびっくりでした。

この授業は,5年生「平均」の導入です。子どもたち1人1人が取り上げられる数値(データ)の当事者であったからこそ,「不公平感」や「かわいそう」「めんどう」などと感じることができたのです。