2019年11月24日日曜日

量分数の誤答を乗り越える

3年生「分数」2時間目です。前時は1mを基準量にした量分数を取り扱いました。本時は,1Lを基準量として取り上げます。さらに,内部を前時は10分割でしたが,本時は5分割としました。

右の図を提示し,「青い水は何Lですか?」と尋ねます。前時の分数を使えば,簡単だと思っていました。しかし,子どもの学びは簡単に一直線には進みません。子どもの考えはバラバラになりました。ズレが生まれました。

まずは,「1/1000L」の考えを取り上げます。「絶対に違う」という声が多数あがります。しかし,この声を取り上げる前に,「なんで1/1000Lと考えたか,気持ちは分かるかな」と1/1000Lの論理を読解します。

「1Lは1000mLでしょ。そして,青いところは1つ分だから,1/1000Lと考えたんだよ」

子どもたちは,鋭く1/1000Lの論理を読み解いていきます。そこで,「だったら,1/1000Lでいいんだね」と投げかけます。子どもたちは,この論理をどのようにして乗り越えていくのでしょうか。子どもたちは,次のように説明してきました。

「もし,1/1000Lだったとします。すると,次の目盛りは2/1000L,その次は3/1000L,その次は4/1000L,最後は5/1000Lになる」
「本当は一番上は1000/1000Lになるはずなのに,5/1000Lだから違うよ」

子どもたちが考えたのは,友だちの考え方が正しいとしたらと「仮定」して,場面を拡張していく説明でした。「仮定」を使った説明は,子どもたちには分かりやすかったようです。「そういうことか」という納得の声が多数あがりました。

この他にも,「2/1000L」「1/10L」「2/5L」の考え方がありました。これらも,「仮定」を使った説明を用いることで乗り越えていくことができました。誤答を乗り越える際,正しい答えを説明することで相手を納得させることがあります。しかし,この方法ではうまく納得を引き出せないことがあります。しかし,今回のように相手の論理が正しいとする「仮定」の立場をとり,場面を拡張してその論理通りに考えていきます。その結果,その論理の矛盾に気付かせることも有効な話し合いの手だてとなることが見えた1時間でした。


3年「分数」の導入

3年生「分数」単元の1時間目の授業です。右上図を提示し,次のように投げかけます。
「赤いテープの長さは,何㎝ですか」

これは簡単です。「5㎝」と子どもたちがノートに答えを書きます。そこで,「本当に5㎝ですか」と尋ねます。子どもたちは,次のように説明します。

「だって,10㎝の半分だから5㎝だよ」

次に,右下図を提示します。同様に赤のテープの長さが何㎝か考えさせます。子どもたちは,「10㎝」とノートに長さを記述します。そこで,「本当に10㎝でいいの」と尋ねます。子どもたちが説明します。

「40÷4で10㎝だよ」
「だって,40㎝の中が4つに分かれているよ」
「4個に分けた1つ分だから40÷4なんだよ」

ここで引き出したい見方は,この「4個に分けた1つ分」という説明でした。この説明は,他の子どもたちからも納得の声があがります。これで,赤いテープが10㎝であることが見えてきました。

今度は,右の図を提示します。しかし,尋ね方を変えます。
「赤いテープは何mですか?」

私の質問と同時に,「えっ?」「できない」という声があがります。先ほどまでの問題とのズレを実感した声です。そこで,「なんで『えっ?』と言った友だちがいるのかな?」と気持ちを読解させます。

「だって,さっきまでは㎝で答えていた。でも,今度はmで答えるから」
「mでは答えられないよ」
「だって1mないんだよ」
「㎝なら言えるけど」
「㎝なら,ますが1mの中に10個あって3つ分が赤いから30㎝」
「100÷10で1ますが10㎝と分かるよね」
「でも,mでは言えないよ」

赤にテープを30㎝とは表現できても,mの単位では表現できないと多くの子どもたちは考えました。ところがここで,「できるよ」「さっきのを使えばいいよ」という声があがります。「さっき」というのは2問目の問題のことです。

「だからね,1mを10個に分けた3つ分と言えばいいんじゃない」(N男)
「そうか,2問目も『4個に分けた1つ分』と言ってたもんね」

N男の説明は,量分数の見方そのものです。しかも,N男の見方が2問目の考え方を活用していることにも価値があります。このN男の見方を大いに褒めました。

N男の「1mを10個に分けた3つ分」の言い方に対して,「なんか長すぎるなあ」という声もあがります。それをきっかけに,2年生の分数表記を想起する声があがってきました。N男の説明は,「3/10m」と表現することができます。

子どもたちが知っている表現方法の限界に出会わせることで,新たな表現方法(量分数)に気付かせる展開を構成してみました。



2019年11月13日水曜日

「ひきざん」と「たしざん」がつながる

1年生の繰り下がりのあるひきざんの導入場面です。

「どんぐりが12個あります。リスが9個食べました。残りは何個でしょう」

子どもたちは,「わかった!」と元気に声をあげます。そこで,「答えをノートに書きましょう」と投げかけます。ノートに向かい始めた子どもから,「式も書けるよ」「図も描けるよ」という声があがります。式や図をかくことを教師が指示しなくても,子どもから式や図をかきたくなる気持ちを引き出すことが大切です。
さて,子どもの呟きをもとに「式も図もかけるの?すごいね」と褒めていきます。子どもたちは,式や図もノートにかいていきます。

子どもたちが求めた答えは「3個」でした。式は「12−9」でした。そこで,「どうやってどんぐりが3個と分かったの?」と尋ねます。

「図を描きました。12個の丸を描いて,食べたどんぐりが9個だから丸に9個×をつけます。残った丸を数えたら3個と分かります」
「私は,1個ずつ引いていきました。12,11でまず2個引きます。次に残った10個から,10,9・・・5,4と引いていくと,残りが3個だと分かります」

図を描いて考える,指を使って考えるの2つの方法が発表されました。いずれの方法も,子どもたちは納得です。そこで,次のように投げかけます。

「答えを出すには,図を描くか指を使えばいいんだね」

この投げかけに,「そうだよ」という声と同時に,「式でもできるよ」「指なんていらないよ」「図もいらないよ」と声があがります。様々な式が子どものノートには書かれていました。その中の右の式を板書します。
式を見た子どもの反応は,2つに分かれました。「えっ?」という反応と,「あー」という反応です。前者の反応は,この式を作った論理が見えていないことが原因です。
そこで,1つずつ式の意味を読解していくことにしました。まずは,「10−9」についてです。

「12を10と2に分けるでしょ」

この説明に対して,「なんで10と2にするの?」という反応が生まれます。まだ,上記の式の論理が見えていないからです。

「10から食べた9を引くと1でしょ」
「だから10−9=1」
「10から9を引くと簡単だ」
「10+も簡単だったもんね」
「だから,10+も10−も10の固まりで考えるといい」
「その1に,残った2をたせば残りがわかる」

「1+2」の式の意味もここで説明されました。子どもたちは,10の固まりを基準にたし算をしたりひき算をしたりする考え方が簡単だと説明してきました。この考え方は,3口の計算で学んだ考え方です。3口の計算や既習のたし算とつなげた見方・考え方が生まれてきたのです。多くの子どもが,10−も10+と同様に簡単だと考えました。一方,10−は簡単ではないと考える子どももいました。

そこで,10−はそれ以外のひき算よりも簡単なのか実験することにしました。子どもたちに,次のように投げかけます。
「これから言う式の答えが分かったら,黙って手をあげましょう」
10−7,13−7,10−9,14−9などとの式を提示していきます。10からひく計算は,どの子どももすぐに手があがりました。一方,13や14からひく計算に対しては,「えっ?」と声をあげる子どもや,10からひく計算よりも時間がかかる子どもが多く見られました。

10からひく方が計算が簡単だということを,子どもたちは実感していきました。繰り下がりのあるひき算で,10の固まりを作って考えるよさを子どもから引き出すことができただけでなく,既習のたし算での10の固まりを作るよさともつなげて考えることができた1時間となりました。

2020年2月関西大学初等部研究会申し込み開始

2020年2月1日(土)に,関西大学初等部第10回公開研究会が開催されます。申し込みが始まりました。

今回の研究テーマは次の通りです。
「思考力育成を支える主体的学びを引き出す授業デザイン
 〜質の高いズレを主体的学びにつなげる授業展開を探る〜」

私は,3年生の公開授業を行います。子どもの論理的思考力をどこまで引き出し,共有できるのかを考える1時間にしたいと考えています。

事前申し込み制です。1月15日(水)16時で申し込みは〆切ります。当日受付はありません。参加予定の方は,お早めに以下のアドレスから申し込みください。尚,先着1000名に達した場合はそこで〆切りとなりますので,ご承知おきください。

http://www.kansai-u.ac.jp/elementary/education/conference/index.html

2019年11月9日土曜日

1年「かたち」と「たしざん」

1年生に「かたち」の学習があります。その1コマです。

子どもたちに次のように投げかけます。

「三角形4枚で,次の形はできるかな」

ダイヤ型が2つ横に並んだシルエットを提示します。このシルエットを見た子どもたちは,「こんなの簡単だよ」「幼稚園レベルだよ」と声をあげてきます。

三角形4枚を使って,ダイヤ型2枚が本当にできるのか子どもたちは,実験していきます。できた図形は,そのままノートに貼り付けていきます。

子どもたちがノートに貼り終えたところで,「どんな形ができたかな」と投げかけます。

「三角を横にしたのをつなげるとできるよ」
「三角を縦にしてもできるよ」

最初に発表されたのは,右の図形です。しかし,「まだあるよ」「あと2つあるよ」という声があがってきます。

そこで生まれてきたのは,右の図形です。縦型と横型を組み合わせたものです。全部で4つのパターンがあることが見えてきました。

ここでO男が,「(縦型と横型の組み合わせは)あれと同じだ」と声をあげます。この時点で,他の子どもたちにはO男の気持ちは分かりません。O男の「あれ」とはなんなのか?

O男が1週間程前のノートを開いて説明します。そこには,答えが17になる式探しをしたときの式が書かれていました。「9+8」「8+9」「10+7」「7+10」・・・などの式とその種類数を調べた学習場面です。その学習では,式の種類を探すときに,「10+7」が最初に見つかったときは,次の式はその式のたたされる数とたす数を入れ替えれば式がすぐに見つかるという発見があったのです。
つまり,O男はそこでの式探しの考え方と同じ形の図形探しの考え方が共通していると考えたのです。交換法則が式だけではなく,図形にも当てはめられると考えたのです。

全く関係がないように見える数と計算領域と図形領域に,考え方の共通点があることを見いだしたのです。1年生でも素晴らしい見方・考え方ができることを実感した1コマでした。






重さの学習で大切な視点

3年生「重さ」の学習の導入場面です。

子どもたちに,右の3つのブロックを提示し,次のように投げかけます。
「重たい順に順位をつけましょう」

4人1グループに,ブロックを配布します。子どもたちは,手に持って重さを判別しようとしますが,これでははっきりとしません。
そこで,次に子どもたちが考えたのは定規を使ってシーソーを作ることでした。定規の両端にブロックを載せて,重たい方が下がることで順位を判断しようとしました。子どもたちの日常経験から生まれてきた実験方法です。ブロックが定規から滑り落ちないように,ブロックを定規に両面テープで貼り付けるグループもありました。

測定終了後,実験結果を板書させます。結果は,右のようにグループでバラバラになりました。正方形型が一番重たいことは,どの班も共通していましたが,丸型と長方形型の順位はバラバラになりました。

子どもたちは,この原因を測定方法の不正確さにあると考えました。
「ブロックを中心から同じ長さに置いていないんじゃないかな」
「ブロックを片方は寝かせて置いて,もう片方は立てて置いたら重さが変わるよ」

そこで,これらの注意点を意識しながら再実験を行います。しかし,結果はバラバラのままでした。

ここで,ある写真を提示します。それはあるグループの測定の様子を写した写真です。そこには,シーソーの上に置かれた片方のブロックの横に定規を立て置き,何かを測定している様子が写っています。子どもたちに,「なにをしているのか分かるかな」と投げかけます。定規でなにをしようとしているのか,その行動の意図を読解させました。

「地面からの高さを測っている」
「高さを測れば重さの違いが分かる」
「左のブロックまでの高さが3㎝だとします。右が4㎝だとします。この場合は,左の方が重たいことが分かります」

3㎝・4㎝という具体例が説明に加えられたことで,子どもたちは「あー,そういうことか」と納得をしました。

重さの学習で大切な見方・考え方は,目には見えない重さを数値化することで見えるようにすることです。それは,このように長さを重さを置き換える見方・考え方でも構わないのです。子どもたちは,既習の範囲内で重さを数値化できる方法を考えたのです。「g」「㎏」などの重さの単位自体は教える内容です。しかし,いきなりその単位を教えるのではなく,数値化することで見えなかった重さの世界が見えるようになるよさを実感させることが,重さ単元の重要な見方・考え方なのです。

2019年11月7日木曜日

第10回教科書活用セミナー募集開始〜算数授業で育てる見方・考え方〜

お待たせしました。第10回教科書活用セミナーの募集が始まりました。今回のテーマは,「算数授業で育てる見方・考え方とは何か」です。

見方・考え方は新学習指導要領の目玉の1つでもあります。見方・考え方とは,そもそもなにか,見方・考え方を活用する授業とは具体的になにをすればいいのかなど,先生方とともに考える1日としたいと考えています。

詳細は,以下をご覧ください。

期日:2020年1月18日(水)


算数教科書活用セミナー・第10回 (吹田大会) 

【テーマ】算数授業で育てる見方・考え方とは何か 

◆新学習指導要領の完全実施が迫ります。「数学的な見方・考え方」は汎用的な力を育てる重要な視点であり、授業改善に欠かせません。単に「分かること」をゴールにするのではなく、学んだことが他の場面に転移する力を育てるところまでねらいます。2本の模擬授業を通して、見方・考え方について学び合いましょう。◆模擬授業は、第5学年「割合」と、第3学年「表とグラフ」の、単元導入場面です。「割合学習」は新要領改定の目玉です。「表とグラフ」は新領域「データの活用」としても注目を浴びます。これらの単元で育てたい「見方・考え方」とは何でしょうか。◆講演は、本研究会代表の尾﨑正彦です。 

【プログラム】 
◆12:00 受付開始 

◆12:30~13:15 
講座 『算数授業で育てる見方・考え方とは何か』尾﨑正彦 (45分) 

◆13:30~15:00 
教科書を活用した「数学的な見方・考え方を育てる」模擬授業(30分×2本) 

① 有吉克哲先生の「割合」(5年)の導入授業 
② 内田英樹先生の「表とグラフ」(3年)の導入授業 

※小グループで学びのシェア(参加者全員)。 
※尾﨑正彦のコメント。 

◆15:15~16:00 
『3学期単元.攻略法』 ~全6学年の教材研究会~ 
教科書を使った教材研究の方法とコツを、小グループで学びあいましょう!(希望学年にご参加) 
1年「大きいかず」 
2年「簡単な分数」 
3年「表とグラフ」 
4年「分数」 
5年「割合」 
6年「資料の整理」 

◆16:00~16:30 
算数授業づくりQ&A 

【会場】『吹田市勤労者会館』(大研修室1) 
【参加費】2000円 

申し込みは以下のアドレスからお願いします。

https://kokucheese.com/event/index/584417/