この単元の目標の一つは,かけ算の筆算形式を学ぶことです。しかし,この形式を一方的に教えるだけでは,子どもが主体的に学ぶ場面はほとんどありません。
教科書などでは,この単元の導入課題として,30×2や40×3のように何十×一位数の問題場面を提示します。その後のかけ算の筆算につなげるためです。しかし,この展開順は子どもにとっては必要感はありません。必要感があるのは,教える教師だけです。
最初の問題場面は,34×2のような一般的な二位数×一位数の問題場面の方が自然です。この問題場面に向き合ったとき,子どもたちは次のように考えます。
「34を30と4に分ける」
「サクランボ計算だね」
「30×2と4×2を計算すればいいね」
この中で,「どうやって30×2を計算すればいいの」という問いが明確になってきます。このように,子ども自身に何十のかけ算を考えたいという問いを持たせることが大切です。

子どもたちは,「位分け分け」の方法ならどんなかけ算も計算できると考えています。そこで,様々なパターンの十の位×一の位のかけ算に挑戦させます。十の位は「位分け分け」は簡単に計算ができます。ここで気をよくした子どもたちは,「だったら百の位も計算ができる」と考え始めます。そこで,百の位のかけ算も「位分け分け」で計算します。これも,同様の方法で答えを求めることができます。ところが,子どもからは「計算が長くなって大変」「何回も計算するので時間がかかる」と声があがります。子どもたちが,位分け分けの限界に気付き始めたのです。

十の位のかけ算では,右のタイプも日本式の筆算も,どちらも分かりやすいと子どもたちは考えます。そこで,十の位の筆算を両方の形式で取り組ませます。どのタイプの計算でも,子どもたちは両者の優劣はつけがたい考えます。
子どもたちは,「だったら百の位も簡単に筆算でできそうだ」と考えます。子どもが,対象場面を拡張したのです。両者の方法で計算します。すると,今度は「位分け分け式は難しい」と声があがります。部分積のかけ算部分が下に長く伸びるからです。部分積の数も,最後のたしざんの回数も増えます。この部分に子どもたちは,面倒さを感じたのです。
教科書に掲載されている筆算を形式的に教え込むことは,この時期の子どもには簡単です。しかしそれでは,筆算形式の意味やそのよさを子どもが本当に実感することはできません。意味やよさを考えながら学習を展開したからこそ,子どもたちは「百の位でもできるかな」と自ら場面を拡張して考えたのです。
形式的な学習場面が算数にはあります。しかし,その場面への出会わせ方を工夫するだけで子どもが主体的に動き出す授業を創り上げることができます。