「あすかさんが月曜日に30ページ,火曜日に36ページ,水曜日に21ページの本を読みました。火曜日に読んだページ数は月曜日に読んだページ数の何倍ですか」
先ずは,自由に子どもたちに考えさせます。子どもからは,「36÷30」「30÷36」の2つの式が生まれてきました。問題文に合う式はどちらなのか,子どもたちの話し合いが始まります。
「30÷36は問題が変わるよ。月曜は火曜の何倍かの問題ならこの式だけど,今は火曜は月曜の何倍かだから違うよ」
「問題には火曜は,月曜の何倍かと(は)と(の)があるから36÷30」
子どもたちの話し合いで,問題文に合う式は36÷30であることは見えてきました。ところが,ここで子どもたちの認識のズレ見えてきました。
「前の勉強で,割合=比べる数÷もとにする数 と学習したでしょ。だから,もとにする数は30だよ」
「えっ,もとにする数は36だよ」
もとにする数が30なのか36なのかが,子どもたちの新たな問いとなりました。子どもたちの話し合いが続きます。
「火曜は月曜の何倍かということは,月曜の□倍が火曜ということでしょ。だから,月曜がもとだよ」
「えっ,なんで?」
「30×□=36でしょ。これは,□=36÷30になるから30がもとだよ」
「どういうこと?」
「火曜は月曜の何倍かということは,36の中に30は何個あるかということと同じでしょ。だから,もとは36」
「えっ,それなら30じゃない」
「えー,わかんなくなってきた」
子どもたちは様々な事例をもとに説明を進めていきます。しかし,なかなか子どもたちの納得には至りません。割合の見方・考え方の難しさがここでも見えてきます。
ここで私が図や別の例を示し,子どもを納得させることはできるかもしれません。しかし,この展開で生まれる納得は表面的なもので,心の底からの納得には至らない可能性が高いのです。この場面を,もう少しだけ子どもに委ねてみることにしました。すると,子どもが発想の転換を行います。
「図を描けば分かるよ。火曜は36ページでしょ。だから大きい円。月曜は30ページでしょ。これは36ページの中に入る円。火曜は月曜の何倍だから月がもとだよ」
話し合いが混沌としてきたときには,複雑な場面を図に置き換える発想は数学的に価値ある見方・考え方です。
さらに,子どもの説明は続きます。
「火曜は月曜の何倍かを,前に勉強したT君と小人の身長比べの話に例えるよ。すると,T君の身長は小人の身長の何倍かという問題になるでしょ。これなら小人がもとでしょ。だから,月曜の30がもとだよ」
「T君は小人の何倍かは,火曜は月曜の何倍かと同じだから月曜がもとだよ」
以前に身長比べの問題に取り組みました。本のページ数比較を,この身長比較の事例に置き換えたのです。この置き換えにより,子どもたちは「そういうことか」と納得しました。複雑な場面をシンプルな別事例に置き換えることも,数学的に高い見方・考え方です。この置き換えの発想を子どもから引き出すことができたのは,子どもにぎりぎりまで問題解決場面を委ねた結果です。子どもからこの考え方が生まれることで,その発想を大いに称賛することもできます。子どもの考え方を称賛することは,その後の類似場面で同様の考え方が子どもから生まれる布石ともなります。
子どもに委ねる→生まれた考え方を価値づける・称賛する→その後の類似場面で価値づけた考え方が再現・活用される
このサイクルの蓄積を進めていくことが,日々の算数授業では大切です。