子どもたちに,次のように投げかけます。
「カピバラチーム対犬チームで,バイ×2ゲームをしよう」
クラスを半分に分けます。カピバラチームと犬チームの対抗戦です。代表の子どもがじゃんけんを行います。勝ったら,得点が10倍になります。負けた場合は,得点は変わりません。
このルール説明を行ったとき,次の声があがりました。
「もし0点だったら,何回勝っても0点になる」
「0×10は0だもんね。何回繰り返しても0点だね」
0の特殊性に気付いた声です。よい視点が生まれてきました。この気付きから,最初の持ち点は0点ではいけないことが見えてきました。
そこで,最初の持ち点は1点以上にすることにしました。代表の子どもに,裏返した1~9の数字カードから1枚ずつ選択させます。カピバラチームは9点,犬チームは6点を引きました。カピバラチームは大喜びしています。ところが,犬チームから声があがります。
「じゃんけんで勝てば6点が10倍になるから60点。その後もどんどん勝てばいいんだよ」
カピバラチームの喜びは,ぬか喜びだったようです。
いよいよジャンケンです。1回戦,2回戦は,両チーム1勝1敗でした。犬チームの場合の得点は,60点になります。子どもたちにその求め方を尋ねます。
「6点の10倍だから,6×10で60だよ」
「6+6+6+6+6+6+6+6+6+6でもできるよ」
「でも,それってめんどうくさい」
ここまでは既習の計算で10倍の数を求めることができます。
3回戦の勝負は,犬チームが勝ちました。従って,60点の10倍を求めることになります。子どもからは,「簡単」「60×10」という声もあがりますが,首をひねっている子どもの姿も見えます。60×10はまだ未習だからです。そこで,「どうやって考えたらいいのかな?」と子どもたちに尋ねます。すると,次の声が生まれてきました。
「さっきは,6点の10倍が60点だったでしょ。すると,0が1つ増えたでしょ。だから,次の60点も10倍したら0が1つ増えるんじゃないかな」
6点の10倍が60点になる関係で見つけた0の変化のきまりを,60点の10倍にも同様に当てはめて考えたのです。類推的な考え方が生まれてきました。既習を生かす素晴らしい発想力です。
しかし,本当に0が1つ増えるのかは,「60+60+60+…+60」の計算をしないと,この段階の子どもたちには確かめられません。「面倒」という声もあがりましたが,子どもの予想通り答えは600になりました。10倍したら,今度も0は1つ増えました。類推的な考え方が確かめられました。
すると今度は次の声が生まれてきます。
「だったら,100倍したら,0は2に増える」
「1000倍したら,0は3つ増える」
「100000000倍したら,0は8個増える」
10倍の10倍は100倍です。従って,6点の100倍は600点なので,0が2つ増えることが確かめられました。
すると,子どもたちがこの見方のよさを語り始めます。
「0が増えるきまりをつかえば,たし算もかけ算もいらなくなる」
「すぐに答えが分かって簡単だ」
簡単に10倍の得点を求められることが分かりました。残りの時間は,ジャンケンを繰り返し,10倍の数を何回も考えていくことができました。